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【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦

2009.6.21 02:29
このニュースのトピックス新型インフルエンザ

 ■新たな段階へ切り替えの時

 メキシコに端を発した新型インフルエンザは発生から約2カ月がたち、WHOによって今世紀で初めてのインフルエンザパンデミック(世界的大流行)が宣言された。だが日本国内に限れば、これまでのところ感染者数が急増する事態には至らず、大阪、神戸などではひとまず小康状態といった感がある。国内感染の爆発的な発生が見られなかったのは、ウイルスの性状や季節などによる面もあるかもしれないが、初期に感染者が出た中学や高校などが、早い段階で臨時休校に踏み切ったことも良かったといえよう。

 感染症の多くは人から人にうつる。その症状が比較的軽ければ軽いほど、感染した人が動き回ることができるので、それだけ広がりやすい。ウイルスは旅行や通勤・通学といった人の移動や、集会や授業などを通じて、感染の渦を広げていく。今回、感染者が出た学校の速やかな休校は、生徒たちが重症で危険だから休ませたのではない。正体がはっきりしていないウイルスの校内での広がりをおさえ、調査を行い、地域での感染の拡大にブレーキをかけることが大きな目的だった。

 地域で広がれば、重症者が出たかもしれず、地域社会の防波堤の役目を果たしてくれたといえる。だが残念ながら、一部に学校の対応に冷ややかな目を向ける過剰反応があったのも事実だ。ある学校では生徒が制服で外に出られなかったり、発生したことによる非難が学校に寄せられたり、制服のクリーニングを拒まれた例もあったと聞く。メディアの中にも、患者が入院している病院の前の通りなど、感染の可能性などないと考えられる場所で、高機能のマスクを装着してテレビからリポートを送るなど、大きな誤解を与えるような場面も少なからず見られた。

 だが生徒、保護者が疫学調査に協力してくれたおかげで新型インフルエンザへの知見が積み重ねられ、今後の対策の大きな参考になったのだ。感染源を探していくことは、「犯人捜し」とは違う。より多くの人を助けるためである。

 今回は日常生活を壊し、重症者があふれるようなウイルスではないことがわかってきた。しかし多数がかかれば重症者も増えてきてしまう。油断は禁物、専門家は対策の手を緩めてはならないが、一般の人々には落ち着いて日々の暮らしを送っていただきたい。

 どんなに「よかれ」と用意した対策も、実際に使ってみると改善すべき教訓が見つかる。生き物であるウイルスへの対抗策は、重装備でさえあれば万能、というわけではない。国はいま、より状況に合わせた対策案を出した。すべての疑い例をしらみつぶしに検査したり、患者は原則隔離して入院措置を取るといった厳格な対応は、相手がよくわからない、また患者数が少ないごく初期にはうまく機能する。

 やや遅ればせながらではあったが水際作戦から国内対応に切り替えられたように、今度は国内での水際作戦から、地域での患者多発への対策の切り替えになる。再び大きな波が来て、患者が大きく増えることを想定しておかねばならない。患者が増えれば、抵抗力の弱い人から重症者が多く発生することになる。新型インフルエンザとの“戦い”は新たな段階に向け、今、再びギアチェンジの時が来ている。(おかべ のぶひこ)

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