ニュース: 生活 RSS feed
【健康らいふ】メタボリックシンドローム(2−1)
□愛媛大学大学院病態情報内科学教授・檜垣實男氏に聞く
■降圧薬、世界40カ国で史上最大の臨床試験
医薬品の進歩には、目ざましいものがあり、医療水準を押し上げていることは間違いない。血圧を上昇させるホルモン「レニン・アンジオテンシン系」をうまくブロックする降圧薬が次々と開発され、血圧低下はもちろんのこと、心臓・腎臓などの臓器保護作用、糖尿病の発症予防・治療にも役立つというのである。その一番手は? 今回、世界40カ国で、いずれも定評のある降圧薬の大規模臨床試験が行われ、その結果について米国心臓病学会(ACC)と同時に日本でも「同等の効果、副作用で差異」と発表されている。対象者は、心筋梗塞(こうそく)や糖尿病を有する55歳以上の患者2万5600人に及ぶ前代未聞の規模だった。「薬も常に革新を遂げ、ベストでなくてはいけません。臨床試験によって、その是非が問われることが医療界全体の進歩にもつながる」と、愛媛大学大学院病態情報内科学教授の檜垣實男氏は語る。(大串英明)
■ARB「あのACE阻害薬と効果同等」
−−どんな臨床試験なのか
「ONTARGET」試験といって、確かに循環器系疾患の中では、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗(きっこう)薬)という降圧薬を用いた史上最大の大規模臨床試験といってもいいでしょう。実は、高血圧・循環器病の予防においては、「レニン・アンジオテンシン系」という、血圧を上げる悪玉ホルモンをブロックすることが、非常に有効な心血管疾患の発症抑制の手段なのです。まず薬剤としては、「ACE阻害薬」が挙げられます。血圧上昇を促す「アンジオテンシン変換酵素」を阻害して血圧を低下させます。1900年代から先行している降圧薬で、多くの臨床試験で心臓病や腎臓病の発症を抑制することが実証されており、確たる歴史を築いているのです。
ところが、最近、同じレニン・アンジオテンシン系を抑制する薬剤の「ARB」が登場しました。これもACE阻害薬と同様、非常に有効性が高いとして脚光を浴び、使用が拡大しています。ARBは、ACE阻害薬と違って「せき」などの副作用が少ないことから、特に日本では多く使われており、定評ある薬剤同士の初めての大規模臨床試験でもあったのですね。
−−お互い、効果のほどは
ACE阻害薬の代表には、「ラミプリル」が、ARBでは、「テルミサルタン」が選ばれています。ラミプリルは、チャンピオン・ドラッグ、あるいはキング・オブ・ACE阻害薬とも呼ばれ、欧米では一番よく使われています。ほかの大規模臨床試験の結果、高血圧治療剤ではあるけれども、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の予防薬として広く認容されているのです。つまり、動脈硬化病変に対しても非常に強力に脳・心・腎の合併症を抑え、優れた臓器保護作用があるということ。一方、ACE阻害薬は全般に、ARBと比べ、降圧効果が比較的マイルドであり、それに「せき」が起こる確率は、白人と比べ日本人は、およそ2・7倍多いとされています。日本でのARB使用が多い大きな理由になっていると考えられるのです。
−−ARBというのは
ACE阻害薬が米国の高血圧治療ガイドライン(JNC−7)でもその効果が認められているのに対し、ARBは1990年代に開発され、ACE阻害薬に比べまだ歴史が浅い分、エビデンス(科学的証拠)が少ないわけです。しかし、臨床現場やいくつかの臨床試験でも、ほかの降圧薬と同じくらい、あるいは症状によってはそれ以上に臓器保護作用や糖尿病の発症予防効果があることなどがわかってきました。
−−臨床試験では、「非劣性」という言葉が使われていますね
今回の「ONTARGET」試験の目的も、過去にエビデンスで証明されたACE阻害薬の単独投与に対してARBの単独投与の「非劣性」を確かめることにありました。聞きなれない言葉ですが、「非劣性=劣らない」、つまり効果は同等、イコールであるということを確かめるときに用いる臨床試験の常用語です。さらに今回は、効果のある2剤なのだから、併用したら単独投与より効果が上がるのではないかとの仮説から、両剤併用の優越性を証明する目的もあったのです。合計2万5600人の高リスク患者を対象に、3・5〜5・5年の長期にわたって観察された結果が発表されたわけです。
−−さて、その結果は
まず、両者の「非劣性」を判断する検討に関しては、テルミサルタン群がラミプリル群と比べ、収縮期血圧を1mmHgとわずかに低下させているにすぎず、主要項目である心血管死・心筋梗塞・脳卒中・心不全入院などの1次エンドポイントがまったく重なっているので同等、両者の差はなかったということです。
これまで後ろ向き解析では、ARBはACE阻害薬より心筋梗塞を有意に増やすのではないかとの報告もありましたが、これは完全に打ち消されたといっていいでしょう。むしろARBがチャンピオン・ドラッグと肩を並べ、どちらも同等に脳・心・血管イベントを抑制することがはっきり証明できた意義は大きいといえます。
一方、統計的に差が出たのは、「せき」です。ARB(テルミサルタン群)93人に対しACE阻害薬(ラミプリル群)360人と、ほぼ4倍の差で、せきに困った患者が出現し、服薬中止を申し出ています。
副作用に関しては、テルミサルタン群は、ラミプリル群と比較して高い認容性が認められ、治療が継続できる大きなメリットがあります。
−−併用はどうか
心血管イベントに対する発症抑制の結果を見ても、併用の効果はありませんでした。むしろ統計上、「低血圧」や「下痢」「失神」などの副作用が増える結果となりました。