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【やばいぞ日本】第4部 忘れてしまったもの(7)欧米に合わせ「細身」崇拝
一定の型やデザインをもとに安い値段で大量生産し、市場シェアを獲得する大量消費社会。ゴルフのタイガー・ウッズも、米大リーグの松坂大輔も、スポーツ用品の米国ナイキ社が提供する量産モデルの中から、自身の足に合う靴を選ばなければいけない。
スーパーモデルの女性たちは痩身(そうしん)をあらわにしながら新流行の先兵となる。見返りに多額の報酬を得るプロたちはそれでよいが、一般の若い女性たちは自分の体を服に合わせようと、ひたすらダイエットに励む。
「10代のときからつねに、ダイエットをせねばならん、この体形をなんとかしなくてはならん、と強迫観念のように思っている(略)世の多くの女性がそう思っているに違いない」(片野ゆか著「ダイエットがやめられない」について作家の角田光代さんの書評から)
片野さんによれば、若い女性の細身信仰は19世紀の欧米に始まった。着物体形ともいえた日本で、コカ・コーラの瓶のようにメリハリのある体形に女性たちを目覚めさせたのは、1959年にフランスからやってきたマネキンだという。この傾向は日本ばかりではない。
経済産業省が主要国と同じ基準で体形を測定したところ、欧米でも女性のダイエット志向が強いが、日本と並んで韓国の若い女性だけが「極端なまでの細身信仰」(同省デザイン・人間生活システム政策室)という。
日韓とも豊かに成熟した消費社会になったというのに、自らの体形を欧米女性の標準に合わせようともがき続けている。
米軍式訓練体操によりやせるという「ビリーズ・ブートキャンプ」が人気を呼んでいるが、ダイエットは容易ではない。若い女性たちはとにかく食べないほうを選ぶ。
サンケイリビング新聞社系の「リビングくらしHOW研究所」のアンケート(今年5月実施、20歳から30歳代の首都圏の働く女性を対象)によれば、「現在ダイエットをしている」が50・2%、方法は「食事制限」55・1%が最も多い。
厚生労働省の国民栄養調査2005年版によると、20〜39歳の女性のカロリー摂取量は1683キロカロリー。飢えていた1946年の日本人平均の1903キロカロリーを大きく下回っている。同省の食事摂取基準(若い女性は2050キロカロリー)にはるかに及ばず、明らかに栄養不足だ。実際にはやせているのに、「太っている」と思い込んでいる女性は半数近い。
保健医療専門家によれば、20歳代女性のカルシウム摂取量は必要量の7割程度しかない。若い女性の低栄養は骨密度を少なくする。骨の量は20歳代がピークで、年齢とともに減少する。骨粗鬆(そしょう)症になるリスクが高くなる。免疫力が低下し、風邪をひきやすくなり疲れがとれない。月経異常、妊娠できなくなる、低体重の赤ちゃんが生まれる。
米国の「カリスマ主婦」こと、マーサ・スチュワートさんは「女の子のskinny(超やせ)は米国でも国民病。食事だけでも栄養とダイエットのバランスがとれ、しかも日常生活の中で手軽にできる料理法はいくらでもある。実のところ女性たちはそんな情報に飢えている」と言う。
細身=美という画一化されたイメージを女性たちの脳裏に刷り込んでしまった大量消費社会。それに翻弄(ほんろう)されない知恵と自立を、いかに日本女性が身につけることができるかである。
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■「きめ細かさ」で重圧解放
ヒトを資本とみなす理論でノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のゲイリー・ベッカー教授によれば、健康な体作りは教育と並んで重要な「人的資本(human capital)」への投資になる。
少子高齢化が急速に進む日本で、女性という人的資本はますます貴重になるというのに、細身信仰がたちはだかる。
経済産業省が「人間生活工学研究センター」(大阪)に委託して12年ぶりに実施した日本人の体格調査(2004〜06年度)によると、20代、30代前半の女性は12年前に比べ、やせても、おなかの回りは減らない。女性心理は「それならもっと節食しなくては」という悪循環にはまる。問題は若い女性のカロリー摂取平均値が必要量を大きく下回っているばかりではない。20代女性の野菜摂取量は60代の3分の2で、栄養のバランスも悪い。
ではどうすればよいか。
周囲で拒食症などに悩む数多くの女性たちをみてきたマーサ・スチュワートさんは、メディアの重要性を強調する。彼女は今、インターネットでの生活百科事典「マーサ・ペディア」の立ち上げを企画している。
ペディアでは、手軽に手に入る食材でおいしく栄養のある食事の作り方など、働く女性や主婦たちに生活のノウハウを伝授するという。スチュワートさんは「日常生活の中で何がすぐできるかという新鮮な情報を私マーサが直接消費者と双方向で対話しながら編集する」と意気込む。
「企業家主婦」マーサはインサイダー取引捜査での偽証罪で04年10月から5カ月間服役したが、出所後は全米で「マーサ・コール」に迎えられた。
大復活の秘密は、画一化された大量消費情報に飽き足りない米国の若い女性や主婦層が自分に合った普段着感覚の個性をマーサに求めていることにある。
日本では、若い女性たちの個々の体形や感性に合った多様なファッションを手ごろな価格で提供する官民一体となった試みも始まった。経済産業省デザイン・人間生活システム政策室は業界に「3次元人体計測器」の普及を働きかけている。同室の専門家によれば、日本の服飾は伝統的に型紙でデザインする手法をとってきたので、どうしても単一化されたサイズの女性服が量産される。
3次元の計測データをもとに立体的にデザインされた服は細身に見えてもゆったりしたサイズの女性服の作製が容易になり、細身の服に体を合わせなくてはという重圧から女性を解放できる。きめ細かい「ものづくり」という日本本来のお家芸に回帰するわけだ。
ヤセ細る女性で同じ悩みを抱える韓国から、3次元人体計測システムに照会が相次いでいるという。(田村秀男)




