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【人、瞬間(ひととき)】あの舞台 ソプラノ歌手・中丸三千絵さん(47)(下) (1/2ページ)
このニュースのトピックス:クラシック
■スカラ座に教えられた心構え
「これまでに『舞台を成功させよう』と思ったことは一度もありません」と言い切る。
26歳で留学し、本場の歌劇を学び始めたイタリア・ミラノのスカラ座で、舞台に上がることの怖さを目の当たりにした。
1778年に落成した歌劇の殿堂。天井桟敷の常連客は名演に拍手を惜しまないが、失敗には手厳しい。ある歌手は、たった1度、高音部で声が割れたせいで、二度とミラノでは歌わなくなった。別の歌手の舞台では、パラシュートにつながれたネコが天井桟敷からニャアニャアと鳴きながら落ちてきた。どちらも世界最高水準と称される歌い手の逸話だ。
そこは言葉通りに、歌手生命をかける舞台だった。「だからこそ、マリア・カラスや、フルトベングラーらの名が歴史に刻まれたのですが…。ブーイングに耐えられずに引退した歌手を、この目で何人も見てきました」。中丸は改めて「何人も」と力を込め、しばらく沈黙した。
1990年、中丸が「スペードの女王」でスカラ座の初舞台を踏んだとき、師匠のシミオナートは「小さな役からゆっくり階段を上りなさい」と告げたという。
気を抜かない。丁寧に。完璧な役作りをめざすのは当然。その姿勢は大役を任されるようになっても揺るがない。
「ひたすら、失敗するわけにはいかないという思いだけで来ました」

