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【音楽水先案内】コントラバスは母なる大地

2008.5.11 09:12
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 コントラバスはオーケストラのいちばん右手、チェロ・グループの後ろに城壁のように聳(そび)えているのがふつうである。弦楽器のなかでいちばん大きく、脚立のような椅子(いす)に座って弾く。体力と根気のいる楽器で、メロディーを奏でて聴衆の注意を引きつけることはめったになく、奏者は縁の下の力持ちに徹する覚悟を求められる。

 それでもコントラバス奏者は、この楽器なしではオーケストラは成り立たないということに誇りを抱いている。ヨーロッパではキリスト教が長いあいだ支配して、だれもがゴシック様式の巨大でどっしりした聖堂の構えと、そのなかでひびき渡るオルガンの深々とした音になじんできた。コントラバスはその伝統を引きついで、オーケストラという大伽藍(だいがらん)を下支えする重要な役割を担っている。

 『香水』という小説で知られるドイツの作家ジュースキントは、「コントラバス」と題する一人芝居を書いている。そのなかでこの楽器を母なる大地、あるいは虚無への墜落の見張り役とみている。いわば船の板子一枚下は地獄。コントラバスはまさにその板子。あるときは不安に、あるときは安堵(あんど)に揺れるひびきはこの楽器ならでは。

 ベートーベンの「田園交響曲」の嵐のシーンや、シューベルトの「未完成交響曲」第1楽章の出だし、ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」の前奏曲などに、その複雑な魅力がひびき出ている。(ドイツ文学者・音楽評論家 喜多尾道冬)

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