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【ステージ随想 客席から】インバル指揮 都響「千人の交響曲」
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■天上の世界を垣間見せる
マーラー畢生(ひっせい)の大作にして、空前のスケール感を誇る交響曲第8番「千人の交響曲」が東京都交響楽団の新任のプリンシパル・コンダクター、エリアフ・インバルのもとで演奏された(4月28日、東京・上野の東京文化会館)。インバルは改めて言うまでもなく現代屈指の名指揮者であるし、ことにマーラー演奏では傑出した評価と名声を誇っている。しかも70代を迎えた今まさに円熟期にあり、異例の期待感の中で指揮棒が振り下ろされたと言ってよいだろう。
だが大作との格闘とでもいうべきか、奮戦するも今一つ精度と緻密(ちみつ)さを欠いた。作品を知り尽くしたインバルではあるが、統率力がやや弛緩(しかん)気味だったし、解釈の方向性がオーケストラ、独唱者、コーラスに徹底していないもどかしさが残っていた。表現が一つのドラマとしてまとまらず、感動の層と質、味わいと美しさが深められなかったのは惜しまれた。
しかし第2部になると響きのバランスが確保されてきたし、表情にも自然なふくよかさが加味されて演奏内容は一変、インバルならではの感銘の密度が濃くなってきた。恍惚(こうこつ)として歌われる「マリア崇拝の博士」辺りからは天上の世界を垣間見るかのような境地に聴き手を誘う瞬間もあり、この大作でしか体験できない喜びと興奮に浸らせてくれた。
大作に挑戦した意欲は高く評価されるが、より周到な準備を経て歴史的公演にしてほしかったとの思いが一部に残る就任披露演奏会であった。
(音楽評論家 諸石幸生)