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【酒とジャズの日々】名演案内 ブルー・ミッチェル
■アイル・クローズ・マイ・アイズ
「私は自分の葬式にはこれを流しますよ」。出版社に勤めるM氏が息巻く。すでにタラモア・デューの水割りを5杯空けていた。
流れていたのはアーチー・シェップの『ワン・フォー・ザ・トレイン』。
「これを流せば、何だこれはって、みんな耳を塞いで逃げ出すだろ!」。M氏らしい韜晦(とうかい)。6杯目を注文しながら「あなたなら葬式に何を流します」と問うてきた。
「密葬にして、骨は屋形船から隅田川にまいてほしいので、そこで流すとすればヘンデルの『水上の音楽』でしょうか」とかわすと、「まじめに答えなさい!」と怒られてしまった。フリージャズにふける人は、決まってきまじめだ。
まじめに耳の記憶をたどる。ほどなく淡い哀しみを宿した秋空のような曲が頭の中で響き始めた。ブルー・ミッチェルの《アイル・クローズ・マイ・アイズ》。『ブルーズ・ムード』の1曲目。難しいことは何もやっていないのに、ミッチェルのトランペットとウイントン・ケリーのピアノがとにかく美しい青春の音楽。録音は1960年。
「マスター、この騒音の後に『ブルーズ・ムード』を」と挑発してみたが、M氏は酔いつぶれカウンターに突っ伏していた。(桑原聡)

