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【ステージ随想 客席から】アンドラーシュ・シフ 多様性を提示した豊穣な世界
このニュースのトピックス:クラシック
アンドラーシュ・シフが9年ぶりに来日した。6日、東京・四谷の紀尾井ホールでは、バッハのパルティータ全6曲というプログラムでバッハの名解釈者のさらなる円熟を強く印象付けた。そして、10日、同・初台の東京オペラシティ・コンサートホールでのリサイタルでは、ベートーベンとシューマンの作品でもう一つの側面を見せてくれた。
冒頭の「蝶々」は若い作曲家シューマンのみずみずしい感性をありのままに反映した音楽。それによって聴き手を繊細なニュアンスを連ねたシフの音楽へといざなう。つづくベートーベンの第17番「テンペスト」、そして後半の第21番「ワルトシュタイン」で示したシフの解釈は、多くの人が抱いている作品のイメージを根底から覆すもの。
ベートーベンといえば精神性、運命との戦いなどという言葉のもと一定のイメージに塗り固められがちだが、シフは作品が持つ多様性をありのままに提示し、豊穣(ほうじょう)な音世界を実現する。
それにしても、いかに自然で、奥行きの深い世界だろうか。2つのベートーベンの間に置かれた「幻想曲」はシューマンがベートーベンへのオマージュとして書いた異形のソナタとも言うべき作品。この作曲家特有の淡いロマンに彩られた音楽はまるでさまざまな中間色の光を放つよう。ここでも音楽の多様性をありのままに表現するという姿勢が大きな説得力を持っていた。(音楽評論家 岡本稔)