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【戯言戯画】中村中 天使が落ちてきた
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なんだろうこの感情は!
暮れの紅白歌合戦。赤いドレスをまとい「友達の詩」を歌う彼女の姿にどぎまぎする自分に気がついた。
この感情は「ほれた」に近い。でももっと複雑で根源的な感じがする。自分の存在の一番深い部分を、鋭利で冷たいナイフでなでられたような。油断しているとグサリと刺されてしまう…という甘美な恐怖感。
まいったなあ。スラリと伸びた白い脚と赤いドレスの対比にどぎまぎしたのも確か。しかし、それよりも何よりも、天からの贈り物としか言いようのない聖性をもった声にしてやられたと思う。聖性だけではない。やわらかでしんのある中域、清らかな高域とかれんなファルセット、さらにすごみすら感じさせる低域。こんな声の持ち主、美空ひばり以外にはいない。もちろん歌唱テクニックは、天才ひばりに及ぶものではないが、感情表現では「ギフト」を存分に生かし、ひばりといい勝負をしている。これが22歳とは!
同時に驚嘆したのは曲作りの才能。これほどシンプルな言葉とメロディーで人の心を打つ作品を書くことができるとは、まさに奇跡を聴くような思いがした。願わくは、こんなきらびやかなステージではなく、中世に建てられたロマネスク様式の聖堂で聴いてみたい。
ところで、紅白では歌の前に彼女の性同一性障害を紹介、母上の手紙を紹介していた。「国民的番組」らしい演出だった。でも、味わった感動を、彼女の性同一性障害とからめて薄めてしまうようなバカなまねはしたくない。彼女の歌は、能書き抜きに聴けばよい。せっかく空から天使が落ちてきてくれたんだから。
(桑原聡)