MSN Japanのニュースサイトへようこそ。ここはニュース記事全文ページです。

ニュース:エンタメ 芸能界マスコミ音楽ゲーム・コミック写真RSS feed

【やばいぞ日本】第5部 再生への処方箋 番外(完)“異種交配”が独創性つくる

2007.12.18 03:46
このニュースのトピックストレンド

 三宅純という天才肌の音楽家がいる。49歳。テレビを見る人なら誰でも彼の作品を聴いたことがあるはずだ。

 「キリン一番搾り」から「レクサス」まで、過去4半世紀にソニー、松下、資生堂など2500作ものCM音楽を手がけ、カンヌ国際広告映画祭などで何度も受賞に輝いた男である。

 発表したアルバムは13枚、海外ではCMよりもアーティストとしての評価が高い。米国の大物音楽プロデューサーをして「誰よりもあらゆる音楽言語に通じ、それを操る才能を持つこの男と仕事がしてみたい!」と言わしめた彼は、日本では数少ない世界に通用するミュージシャンだ。

 三宅を知ったのは20年以上も前、六本木のライブハウスで彼の生演奏を聞いたときだった。甘美ながらも凶暴なサウンドに度肝を抜かれた。さまざまなジャンルを融合しつつ、それを超越するパワーと感性。こんな日本人離れした音楽家が日本にいるとは思わなかった。

 2年前、この風変わりな男がフランスに拠点を移し、パリ・東京を往復する放浪生活を始めた。彼は当時47歳、東京にいれば仕事はあるし、売れっ子だから生活にも困らないはずなのに…。なぜだろう。

 三宅は高校時代から早くもプロのトランペット奏者として活動、彼の才能を見抜いた日野皓正に勧められ、1976年にボストンのバークリー音楽大学に入学した。帰国後は演奏活動の傍らCMを含む作曲活動を始めた。当時はバブル絶頂期、CM業界は自由に曲を作らせてくれた。だが、そのうち自由度が少なくなっていった。

 三宅はこう振り返る。「レコード業界は売れるかどうかが唯一の価値基準になった。芸術性・創造性は追求せず、既存のジャンルの中でばかり販売競争している」。ヒット曲が出ると、二匹目のドジョウを狙って皆が似たような曲を作り始める風潮には閉口するという。

 「陸続きの国境がある欧州で、さまざまな芸術家たちと異種交配をしたかった」

 日本脱出の理由をこう語る。三宅のパリでの活動は実に刺激に富んでいる。ドイツ人の舞踏家が新しいプロジェクトを持ち込む。日本人の三宅が音を作る。チュニジア人が民族楽器を奏で始めた。ブラジル人とブルガリア人の歌手が呼ばれ、フランス人の作るコスチュームをまとったチベット人ダンサーが舞う。演出は誰もが尊敬するアメリカ人に決まった。複数の言語が飛び交う中、やがて彼らの心は一つになる。現場に決定権があるから、あっという間に素晴らしい作品が仕上がる。

 このようにヨーロッパでは人種、宗教、文化の異なる芸術家たちが集い、形式とジャンルを越えた“異種交配”が日常的に起きている。島国の日本ではあり得ないことだ。

 国内の一元的な音楽産業文化に閉塞(へいそく)感を覚えた三宅は、より風通しの良い地を求めて日本を脱出したのである。

 「日本の音楽業界は横並びを気にしながら走っている。出る釘は打たれる。独創性よりも経済の論理が重視されるので、個人の能力は伸びない。このままではいずれ衰退するでしょう」と彼は言う。これこそ現代日本の閉塞感を象徴するような話ではないか。

 ■「変わり者」をどう育てる

 三宅純は最近の心境をこうも語っている。

 「ヨーロッパに来て、音楽の良心を持つ『マッドでクレージーな』業界人が現場で強い権限を持っていることを知り、とてもうれしかった。一方、日本の音楽業界は目先の流行ばかり追い求め、若いミュージシャンの才能の芽を摘んでいるような気がします」

 「僕はCM音楽の作曲を通じて、世界中のさまざまな音楽様式を混ぜ合わせるスタイルを長年実験してきた。異種交配こそが創造性とパワーの源泉です。今の日本人はあらゆる分野で優秀ですが、パリから見ると、日本人はどこか『突出した決定力』に欠ける。もしかしたら、既存のフォーマットにとらわれ過ぎているからかもしれない」

 彼の言葉を聞いていたら、昔読んだ「『異脳』流出」という本のことを思いだした。青色発光ダイオードの実用化で有名になったカリフォルニア大学の中村修二教授ほか日本が世界に誇る7人の先端技術研究者が、なぜ海外で暮らし、日本に帰りたがらないのかを紹介した興味深いドキュメンタリーである。

 著者の岸宣仁氏は、これらノーベル賞級の科学者が日本を脱出する理由として、業績を客観的に相互評価できない日本の「もたれ合い社会」、画一的教育制度と大学内の上下関係、官僚の縦割り行政の三つを挙げ、こう指摘する。

 日本の閉鎖的な学界では独創的な発想を持つ無名の「変わり者」はなかなか評価されない。危機感を持った大学は優秀な研究者を招聘(しょうへい)するが、肝心の実験装置が整備されず、研究はできない。権限は予算を握る官僚が独占し、先端技術の現場の声は反映されない。

 これではトップレベルの「異脳」が日本を去るのも当然なのだろう。

 この本が描く最先端技術学界と三宅が憂う日本の音楽界とは、一体どこが違うのか。「独創性を殺す日本というシステム」という本書のサブタイトルは決して偶然ではない。

 両者に共通するのは、ずば抜けた才能を持つ「変わり者」をうまく育てられない日本社会の病根の深さではなかろうか。

 明治維新以来、日本人は欧米からの強い圧力の下、さまざまな異種配合を通じて日本独自のシステムを作り上げることにより、厳しい国際社会を生き延びてきた。しかし最近の日本人にはそうした危機意識が薄れつつあるのではないか。

 われわれがバブル崩壊を何とか乗り切り、これまでの居心地よい国内システムに安住している間に、世界では日本抜きで熾烈(しれつ)な大競争時代が始まっている。

 それにもかかわらず、日本社会から放出されるエネルギーは決して十分ではない。三宅の言うとおり、もし日本社会が閉塞(へいそく)しているのであれば、今こそ必要なのは自ら進んで既存の枠組みをぶち壊し、異種交配を進めていく「変人」たちではなかろうか。

 われわれ「凡人」が彼らを受け入れ、応援することができれば、日本の再生は十分可能だと思う。(寄稿 宮家(みやけ)邦彦)

                   ◇

【プロフィル】宮家邦彦

 宮家氏は元外務省中東アフリカ局参事官。現在立命館大客員教授、AOI外交政策研究所代表。54歳。

                   ◇

 ≪終了にあたって≫

 日本の劣化などに警鐘を鳴らしてきた「やばいぞ日本」(7月3日付開始)は本日、66回で終了します。

 このままでは、愛する日本は没落しかねないとの危機感から始めた連載企画は、惨状をもたらしているのが内向性、他者依存、国益意識のなさ、もたれ合い、官僚制度の機能不全などに起因するところが大きいと繰り返し提起しました。

 とくに教育では、ものを考える力が落ちている、しかり方を知らない親が増えているーなどの問題点がわかり、「人」がかけがえのない資産である日本の病根の深さを浮き彫りにしました。

 最終第5部では、こうした問題点を解決するための手がかりとして、異文化に飛び込む日本人などの心意気や気概を考えてみました。来年には新たな企画として、底力を掘り下げる予定です。

 20日付で宗教学者の山折哲雄、JR東海会長の葛西敬之、元外務省中東アフリカ局参事官の宮家邦彦、一橋大学客員教授の中満泉の4氏による座談会を掲載します。日本の現状や問題点、さらに解決への処方箋(せん)をどう考えるか、を提示します。

 連載企画は来年2月ごろ、単行本として扶桑社から出版の予定です。(「やばいぞ日本」取材班キャップ 中静敬一郎)

PR
PR
イザ!SANSPO.COMZAKZAKFuji Sankei BusinessiSANKEI EXPRESS
Copyright 2007 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
このページ上に表示されるニュースの見出しおよび記事内容、あるいはリンク先の記事内容は MSN およびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
掲載されている記事・写真などコンテンツの無断転載を禁じます。