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【わたしの失敗】ミュージシャン・喜多郎さん(3)
■長髪で入国できず
「これは僕の失敗じゃないんだけど」と前置きして語ってくれたのは、トレードマークの長髪にまつわるハプニング。
1984年のこと。外務省から「国際親善音楽大使」に任命され、コンサートをするためにシンガポールへ旅立った。
外務省職員と一緒に現地に到着し、入国手続きのゲートへ。パスポートを見せると、突然、「あなたは入国できません」と突っぱねられた。
当時、リー・クアンユー首相の意向でシンガポールはなぜか長髪の人の入国を制限していた。事前にそれを聞いていたので髪をしばり、頭上に団子状にまとめて布で隠していたのだが…。聞けば、世界中の著名なロングヘア・ミュージシャンの“ブラックリスト”に載っているのだという。
「僕、外務省の任命大使なんですけど」といっても、「入国は許可できません」の一点張り。係官はゲートの脇にある理容室を指さした。
「あそこで髪を切ったら入国してもいいよ」
うーん、と黙考する喜多郎。
「一応考えましたよ。コンサートが2日間予定されていて、初めて行く国なのにチケットは売り切れていた。期待されていましたし、僕以外はスタッフもみんな入国しちゃっていたし。ここで髪を切ればみんなに迷惑がかからないわけです。でも…」
4、5分考え、決断した。
「よし、帰ろう」
もともと喜多郎の名は長髪から生まれたようなもの。「切りたくない」と、コンサートをキャンセルし、次のフライトで帰国した。成田に戻った後、香港へ行き、アジア各地の記者を集めて会見。「こんな時代に、長髪を禁じるシンガポールはおかしい」と訴えた。
「まだ若かったし、自分の存在を主張したいっていうのがあったんでしょうね」
それから約10年後。コンサートのため、首相が変わったシンガポールに再び向かうことに。「また入国できないっていわれたら…」などと考えながらゲートへ向かった。すると今度は、わーっと大勢の係官が集まって「サインをくれ」の連呼。トップが代わると、こうまで違うのかと思った。会場は超満員で、コンサートは大成功を収めた。(安田幸弘)