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【産経抄】4月19日

2008.4.19 03:05
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 漫画家、上田トシコさんの「フイチンさん」は昭和32年から5年間「少女クラブ」に連載された。舞台は満州(中国東北部)のハルビンである。大金持ちの子供の遊び相手に選ばれた門番の娘、フイチンと、幼児たちとの交流を中心に描いている。

 ▼フイチンは貧乏だが、明るく正義感の強い働き者で、おっちょこちょいでもある。わがまま放題だった幼児もそんな彼女に次第に感化されていく。今読んでも楽しい漫画だが、みんながまだまだ貧乏だった時代に、フイチンは少女たちの人気者だったのである。

 ▼この漫画でわかるように、上田さんはハルビン育ちである。終戦時には満州日日新聞社に勤めていた。「フイチンさん」は、そこでの思い出にもとづいているが、サンザシの実に水(みずあめ)をつけたタンフールーなど独特の風物も出てくる。満州を経験した人にもたまらない漫画だ。

 ▼不思議な気さえするのだが、上田さんだけでなく漫画界には満州育ちという人が実に多い。「天才バカボン」の赤塚不二夫氏をはじめ「あしたのジョー」のちばてつや氏、北見けんいち氏や森田拳次氏、古谷三敏氏らである。この世界を背負ってきたといっていい。

 ▼このうち上田さんだけはやや年長で、社会人も経験している。だがほかの人たちは5歳から10歳ぐらいで日本に引き揚げてきた。引き揚げ先の環境になじめず友達もできない。その寂しさをまぎらわすために、漫画の世界にのめり込んだ人もいたようだ。

 ▼満州への強烈な思い出だけではない。失った故郷を求める渇きのようなものが豊かな想像力を育てたともいえる。その上田さんが、3月に90歳で亡くなっていたという。まるでフイチンさんのように、みんなを励まし続けた一生だった気がする。

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