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【話の肖像画】何ものも恐れず(上)映画監督 木村大作

2009.6.23 04:00
このニュースのトピックス話の肖像画

 ■「劔岳…」は邦画への“喝”

 映画界に飛び込んで半世紀。黒澤明、森谷司郎、岡本喜八、深作欣二、チャン・イーモウら名だたる巨匠とタッグを組んできた日本を代表する名カメラマン。70歳を迎える今年、新田次郎氏の「劔(つるぎ)岳 点の記」(公開中)を映画化し「監督デビュー」を果たした。今の日本映画界に風穴を開けるべく立ち上がった「伝説の活動屋」の思いとは。

 −−映画化のいきさつは

 木村 25年前から個人的に日本の自然を35ミリカメラで撮って回っているんです。平成16年に能登半島に行ったとき、帰路の北陸道で立山連峰が見えた。「劔岳を拝んで帰ろう」と思って一発(カメラを)回したんですね。

 −−ほう

 木村 そのとき、車に「劔岳」の文庫本があったので劔岳の正面で読み出したのです。地図を作るためだけに黙々と与えられた仕事に献身している人たちの話ですが、僕もただ映画を作るためだけに50年を費やしてきた。それがオーバーラップしてきたんです。大自然がバックグラウンドにあるというのも映画的だなあと思った。それで映画化する気になったんです。

 ≪「劔岳 点の記」は、明治39(1906)年に国防のため日本地図の完成を急ぐ陸軍から、最後の空白地点である前人未踏の山、劔岳(標高2999メートル)の初登頂と測量を命じられた参謀本部陸地測量部の測量官、柴崎芳太郎(浅野忠信)が案内人の宇治長次郎(香川照之)と登頂に挑む姿を描く≫

 −−版権は「国家の品格」の著者で新田さんの次男、藤原正彦氏が持っていた

 木村 まさか藤原さんが新田さんのご子息とは知らなかったのですが、「国家の品格」を読んで「悠久の自然と儚(はかな)い人生」という言葉にはまったんです。僕ぐらいの年齢になると先行きのことを考えるわけですが、まさにこの言葉通りだと。藤原さんに書いた手紙に「『悠久の自然と儚い人生』という言葉が僕の人生そのものだということを感じた。実は新田さんの『劔岳』をどうしても映画化したい」とつづった。すると「木村さんがやりたいなら喜んで差し上げます」と返事が来たのです。

 −−過去には新田さんの原作を映画化した「八甲田山」(昭和52年)や「聖職の碑(いしぶみ)」(53年)の撮影も担当していますね。これまで監督をしようと思ったことはないのですか

 木村 キャメラマンというのは楽なんですよ。すべての責任は監督が持つ。僕は好きなこと言って好きなように撮って責任を負わなくていい(笑い)。別にそこに安住していたわけではないけど、キャメラマンって面白いから。

 −−ではなぜ今回監督をしたのですか

 木村 大自然をバックにCG(コンピューターグラフィックス)といったズルをしないで撮れる監督がいるかって考えたけど、結局この題材だったら俺(おれ)が一番適任だなと。

 −−「CG、空撮は一切なし」が「劔岳」の売りですね

 木村 「CG」って言葉を使うのも嫌なんだよね。「何で本物を撮っちゃいけねえんだよ」と。でも、一般観客のレベルが“(映画は)まずCGありき”ということになっている。昔は「本物を撮ってなんぼ」という時代があったわけでしょ。それがハリウッドの宇宙ものから技術が徐々に発達してきた。でも(スタンリー・キューブリックの)「2001年宇宙の旅」は全部アナログ。だからあのすごさが出るんですね。

 −−数カットを撮るためだけに片道9時間をかけて撮影現場まで歩いた、など、新たな伝説が生まれました。どうしてそこまでこだわるのでしょう

 木村 今回の映画に「厳しい中にしか美しさはない」というセリフがありますが、僕の実体験です。美しいというのは心が入っていること。この映画を見た人は映像の迫力や熱さを感じるはず。われわれが熱くないとそれが映像に出ないんですよ。非常にアナログな考えだけど、自分たちの足で器材を山に上げ、忍耐強く待つ。それは明治40年の男たちも同じです。でも彼らは草鞋(わらじ)の足袋、われわれは登山靴。明治の男たちに負けてごまかして撮ったんじゃ、この映画は成立しないでしょう? それに、この映画は日本映画への“喝”でもある。今は映画作りが衰えている。言葉で言ってもしようがないから映画にしたのです。(伊藤徳裕)

                   ◇

【プロフィル】木村大作

 きむら・だいさく 昭和14(1939)年、東京生まれ。69歳。都立蔵前工高卒。33年に東宝撮影部に入社。黒澤明監督「隠し砦の三悪人」の撮影助手を務め、黒澤組の撮影監督、斎藤孝雄らに師事する。52年に「八甲田山」で第1回日本アカデミー賞優秀技術賞などを受賞。「復活の日」「火宅の人」「鉄道員(ぽっぽや)」など約50本の映画で撮影を手がける。平成15年に紫綬褒章受章。

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