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【人、瞬間(ひととき)】あのとき 女優・若尾文子さん(74)(下)

2008.3.20 09:04
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若尾文子さん若尾文子さん

考え抜いて…監督に「勝った」

 “ラストシーン”から撮影は始まった。

 昭和36年公開の主演作「妻は告白する」。若尾は、登山事故で、愛する若い男を生かすため、宙づりの夫の命綱を切るという難役に挑戦する。

 女優生活が10年目に入り、その夏に封切られた主演作「女は二度生まれる」(川島雄三監督)の演技が絶賛されていた。充実した時期だが、このやり方にはとまどった。「頭の中で、最初がこうで途中がこうと考えていかないと、ラストの芝居が計算できないから」

 最後から演じるだけでも厄介なのに、愛する男に最後は捨てられるという設定。難しかった。監督は増村保造。すでに何本も増村の作品にも出ていたが、このような撮影は初めてだった。

 映画終了間際のシーン。若尾は、洗面所に向かう階段を、ゆっくりと下りていく。死ぬ以外ないと絶望した女の心情をふまえ、考え抜いた上での演技だった。

 しかし、増村の反応は芳しくない。「テンポを上げてやってみようか」という。「死を意識した女の行動が、そんなはずは…」と思ったが、監督の指示は絶対だ。言われた通りテンポを速めて撮り直した。

 撮影中はラッシュ(未編集のフィルム)が次々にできあがる。後日、ラッシュを見たときのこと。増村が採用したのは若尾が考えた方だった。驚いた。「あたし、増村さんに勝ったと思った」

 このとき27歳。映画監督の吉村公三郎によると、女優には2度曲がり角がやってきて、1度目は30歳前後なのだという。人気で作られるスターから本当の女優に。そうでなければ生き残れない。若尾は言う。

 「今だから思うの。この映画に出たから、30代を乗り切れたって。女優はね、自分の良いところを引き出してくれる監督に出会えるかどうかで違ってくる。あたしは運が良かったのね」=敬称略

 文 堀晃和

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