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【人、瞬間(ひととき)】あの作品 女優・若尾文子さん(74)(中) (1/2ページ)

2008.3.19 08:29
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 ■「赤線地帯」 巨匠のOKに放心

 撮影現場は、異様な緊張感に包まれていた。日本映画の傑作「赤線地帯」(昭和31年)。娼婦(しょうふ)役の若尾が、客をあしらうシーンが決まらない。テストが延々と繰り返される。疲労ばかりが重なる。

 「1週間はカメラが回らなかったわね。もう針のむしろ」。京マチ子、木暮実千代らをはじめ、大勢のベテラン俳優がいた。大先輩たちはひたすら出番待ち。「死ぬにも死ねないって心境ですよ」

 監督は、「雨月物語」などで世界的な名声を得ていた巨匠・溝口健二だった。若尾は27年、18歳のときに映画デビュー。翌年には溝口の「祇園囃子(ばやし)」に抜擢(ばってき)され、舞妓(まいこ)役の演技が高く評価されていた。

 溝口の撮影は独特だった。セットに入るとまず、舞台と同様に出演者が通しで稽古(けいこ)をした。セリフや動きを合わせる。それが終わると照明を入れて、カメラを据えた。それでもまだ、撮影は始まらない。監督が納得するまで、テストが繰り返されるからだ。

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