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【産経抄】2月18日

2008.2.18 02:35
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 元陸軍中将岡田資(たすく)は、昭和24年9月17日にB級戦犯として、絞首刑に処せられた。獄中で書き続けていた遺稿が、死後まもなく出版された。題名の『毒箭(どくせん)』とは、毒矢のことで、仏陀(ぶっだ)が法話のなかで用いたたとえのひとつだ。

 ▼毒箭が突き刺さってから、誰が射ったのか毒の種類は、などと詮索(せんさく)しても仕方がない。そんな愚を犯すことなく、素直に仏陀の教えを受け止めよ、というのだ。日蓮宗の熱心な信徒だった中将にとって毒箭とは、目前に迫った死だった。

 ▼戦争末期、東海軍司令官だった中将とその部下たちは、B29で空爆を行い、捕らえられた米兵38人を処刑した罪を問われていた。中将は、処刑の責任を1人で引き受け部下の命を救うとともに、米軍の無差別爆撃の違法性を主張して、日本の名誉を守ろうとした。

 ▼『毒箭』は、中将が「法戦」と呼んだ軍事法廷での戦いの記録であり、家族、そして次世代の日本人すべてにあてた長い遺書でもある。その中将を主人公にした映画『明日への遺言』が、まもなく全国で公開される。

 ▼原作となった『ながい旅』は、『毒箭』などの遺稿を読んで感銘を受けた大岡昇平が、綿密な取材をへて、昭和57年に刊行したノンフィクション作品だ。大岡によると、中将が夫人にかけたやさしい呼びかけが、家庭で物議をかもした。「あなたは死ぬときに、こんなやさしい手紙を書いてくれないわね」となじられたというわけだ。

 ▼『俘虜記』『野火』と戦争文学の名作を残した大岡は、戦争の記憶が風化していく社会に危機感を抱いていた。今はそれどころではない。「アメリカと戦争したなんて知らなかった」。こんなことを言い出す若者たちにこそ、映画館で中将の遺書を受け取ってほしい。

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