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【人、瞬間(ひととき)】あの場所 山崎ハコさん(50)(上) (1/3ページ)
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祖母と見た稲の花
8歳の夏。息せき切って自宅に戻ってきた祖母が叫ぶように言った。
「すぐ来なさい、すぐ来なさい」
「私、宿題してんだけど」というハコに、祖母は「そんなことはどうでもいいから、すぐ来なさい」と言うや、Uターンして走り出す。何が何だか分からないまま、後を追いかけた。
「ほれ、見なさい」。祖母が指さしたのは、田植えから稲刈りまで祖母とハコのふたりが面倒をみていた田んぼだ。
「別になんも変わりないけど…」
祖母は諭すように繰り返した。
「よーく見なさい」
目をこらしてみると、田んぼ一面が霞がかかったようにもわーっとしていることに気がついた。噴き出す汗をぬぐいもせず、しばらくの間、ふたりは押し黙ったまま田んぼを眺めていた。
「稲の花が田んぼ一面に咲いていました。稲の花って、風が少しでも吹くとすぐにモミが閉じてしまう。その日はよほど条件がよかったんでしょうね。めったにないことなので、ばあちゃんは私に見せようと必死だったんです」
◇
ハコは林業で知られる大分県日田市の兼業農家に生まれた。祖母、両親、5歳上の兄の5人家族。競輪選手になりたかったという父は、自転車で仕事のできる郵便配達員をしていた。
「ばあちゃん子でした。母も働いていたので。ばあちゃんは、明治生まれのけじめのはっきりした人。私のものの考え方って、ばあちゃんの影響をもろに受けていると思います」

