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【人、瞬間(ひととき)】高座での絶句が出発点 落語家・林家正蔵さん(45)(上) (1/3ページ)
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おかしい。稽古(けいこ)ではちゃんと言えたはずなのに…。
腰を据えて古典落語に取り組もうと平成11年の夏、東京・根岸の自宅で、稽古して覚えたネタをお客さんに聞かせる落語の会を始めた。記念すべき1回目、「蒟蒻(こんにゃく)問答」を演じている途中、どうしても次の言葉が出てこなくなった。
………。客席も静まりかえる。落語家にとって恥とされる“絶句”だった。お客さんにおわびして高座を降りた。「ほんとにあせりましたよ。情けなくて、申し訳なくて」
◇
「昭和の爆笑王」と呼ばれた林家三平の長男。こぶ平を名乗っていた当時、知名度や明るいキャラクターを買われ、落語家というよりは、売れっ子タレントとしてテレビやラジオの出演に忙しい日々を送っていた。
しかし、中学生のころから憧れていたのは古典落語の名手、古今亭志ん朝の高座だ。この世界に飛び込んでからも「古典落語をきちんとやれる噺家(はなしか)になりたい」という思いは強かった。
このとき37歳、真打ち昇進以前から何度も勉強会を催し、古典落語に取り組んでは挫折を繰り返してきた。今度こそは、と腹をすえて稽古も積んだつもりだった。それなのに…。
がっくりして客席を見ると、母親(海老名香葉子)が、帰るお客さんひとりひとりに頭を下げて謝っている。
「ハッとしましたね。お袋を謝らせて、辛い悲しい思いさせて…俺、何やっているんだ、と。どこかで甘えていた。覚えれば何とかなると思っていたんですね。それからです。よしやってやろう、と思ったのは」

