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【わたしの失敗】タレント・桂小金治さん(81)(4)
■「辛抱できないのは意気地なし」
「草笛って聞いたことある?」。小金治はそう言うと、垣根から取ってきたという葉っぱを口にあてて、「故郷」(岡野貞一作曲)を吹き始めた。郷愁を誘うメロディーがあたりに響く。この曲にまつわる、ほろ苦い思い出があるのだという。
10歳のころ、友達の家で覚えたハーモニカが欲しくて父親にねだった。父親は「なんで?」と一言。「いい音がするからだよ」とせがむと、いきなり神棚の榊(さかき)の葉を1枚むしって、目の前に突き出した。「いい音ならこれで出せ」
「鳴るわけないじゃないか」と不満を口にすると、父親は葉を唇に当て、すばらしい音色を奏で始めた。「故郷」だった。「こんな葉っぱでこんないい音がするんだとびっくりしてね」
あくる日から、学校の行き帰りに垣根の葉っぱを取って練習した。しかし、いくらやっても鳴らない。わずか3日で止めてしまった。ある日、父親が成果を聞いてきた。「鳴らねえから止めたよ」とふてくされて言うと、こう言われた。
「努力まではみんなするんだよ。そこで止めたらドングリの背比べ。一歩抜きんでるためには努力の上に辛抱という棒を立てるんだ。この棒に花が咲くんだよ。辛抱できないやつは意気地なしだ。やるからには続けろ」
一言一言が胸に刺さった。殴られるよりもショックだった。中途半端な自分が恥ずかしくなった。
悔しくて、それから毎日あきらめずに吹き続けた。行き帰りだけではなく、学校の校庭のすみや、自宅でも練習を続けた。すると、10日ほどたったころ、突然「ぴー」と音が鳴った。
「うれしかったなあ。おやじがすごくほめてくれてねえ」。もっとうれしかったのが、翌朝目を覚ますと、枕元に新聞紙に包まれたハーモニカが置いてあったことだ。台所の母親に伝えると、こんな言葉が返ってきた。「3日も前に買ってあったよ」
思わず「なんで?」と尋ねると、母親は「父ちゃんが言ってたよ。『あの子はきっと吹ける』って」。このときは、涙が止まらなかったという。
「人に信じられるってこんなにうれしいことなんだ。人に信じられる人間になろうと心に決めたのは、このときからなんだよ」=敬称略
文・堀晃和

