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【わたしの失敗】俳優・柄本明さん(59)(4)
■役者はろくな商売じゃない
11月10日公開の映画「やじきた道中 てれすこ」の中で、柄本明演じる喜多八が首をつるシーンがある。
石灯篭(いしどうろう)の上で、さんざん迷ったあげくに足を踏み外し、松の枝にぶら下がってしまった喜多八が、もがきにもがく。表情と動きで観客を大いに笑わせるシーンだ。撮影は昨年10月に行われたが、実はその日は、柄本が腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の手術を受けて退院した当日だったのだ。
全身にパラシュートの留め具のような拘束具をつけた柄本は、つり上げられ、落とされ、さんざんに揺さぶられた。服用した抗生物質のせいで、じんましんになりながらも、柄本は心配するスタッフたちに、「大丈夫、大丈夫」と平然と答えていたという。
しかし、本人に聞くと、「そりゃ大丈夫じゃなくたってやるんだよ。仕事だもん。地獄のようだったよ」と弱々しい言葉が返ってきた。
「役者なんてろくな商売じゃないよ。『ようい、スタート』って言われれば、みんなが見ている前で何かやっちゃうんだ。恥ずかしい話さ」
俳優一筋の男が「役者なんて食えない」「20歳の若者が30歳になってしまうのなんて、すぐだ」と否定的な話ばかりをする。30年以上もこの仕事を続けている理由については、「さあねえ、結局水に合ってたんだろうねえ」とぽつりと言うのみ。
しかし、話が演技に及ぶと、その口調は俄然(がぜん)熱を帯びる。
あるとき、知人の役者から舞台の後で「いやあ、今日は調子悪くて」と話しかけられた。
「でも、おれにはいつもと大して変わらなく思えた。端から見れば、大した違いはないんだよ」
成功も失敗も同じ人間が生み出したものだ。しかし、人間は失敗の記憶を消して、うまくいったときの自分だけを好きになる。
「そうやって“いい芝居”や“いい自分”ばかりを追い求める役者は、観客にすぐ見抜かれてしまう。失敗は嫌なことだけど、それに出くわしたのはいいことだと思わなきゃ。役者は人にバカにされる喜びを感じないとだめだ」
柄本は嫌いなはずの俳優という職業への思いを、熱く熱く語り続けた。
=敬称略(岡本耕治)
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次回はタレント、桂小金治さんです。

