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【産経抄】10月28日

2007.10.28 03:28
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 狂言の誕生については、能とともに中世の猿楽から派生したという説が有力なのだそうだ。しかし、狂言役者の茂山千之丞さんは著書『狂言じゃ、狂言じゃ!』で、もっと魅力を感じる説があると言う。農民のエネルギーによって創造されたとの説だ。

 ▼村の祭りで人々が農耕の神を招いた祭壇の前で飲めや歌えやの饗宴を張っている。そこへすっかり出来上がった一人が立ち上がり、滑稽(こっけい)でちょっと猥雑(わいざつ)な物真似を始める。群衆は腹を抱え笑い興じる。それが母体となり、狂言が生まれたのではないかというのである。

 ▼これが狂言の「原点」だとすれば、その雰囲気を最もよく伝えているのが千之丞さんの兄、茂山千作さんのような気がする。ふくよかでマユの下がったその顔を見ただけで幸せな気分になる。芸は「出てくるだけで狂言になる」と言われるほど「おかしみ」を漂わせているからだ。

 ▼その狂言も戦後、他の伝統芸能と同様、見向きもされなかった時期があった。千作さんは理論家でもある千之丞さんと全国の学校を回り、狂言の楽しさを知ってもらおうとしたそうだ。それが今狂言役者が次々とテレビドラマに出演し「追っかけ」も現れる狂言人気である。

 ▼復興に尽くした千作さんが文化勲章に選ばれたのも当然だろう。だが自身は数年前、産経新聞のインタビューに、人気は「今が頂点やと思います」としてこう語っている。「若い人には古典の型やセリフ回しなど基礎をうんと稽古(けいこ)するよう、言っています」。

 ▼「出てくるだけで…」という千作さんのおかしみも、決して天性のものではない。子供の時から「型」を大切にしてきたからだ。そう言いたかったような気がする。それは、すべての伝統芸能に言えることである。

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