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【ウェブ立志篇】「情報共有」の重要性 梅田望夫
IT関係の今年上半期最大のニュースは、グーグルと対抗するために、マイクロソフトがヤフー買収を目論(もくろ)んだことであった。
2月1日に、マイクロソフトが総額446億ドルでの買収をヤフーに提案したところから大騒ぎが始まり、3カ月間にわたる激しい交渉の末、5月3日に両社は決裂。買収提案は撤回された。
この過程を観察していて印象深かったのは、両社のCEO(最高経営責任者)が、節目にあたる重要なタイミングで、買収交渉状況を説明する手紙を全社員にあてて書き、メールで配信し、その全文がネット上のニュースや新聞でも取り上げられていたことだった。
2人のCEOは、それぞれの手紙の中で「情報共有宣言」とも言うべき表現で、買収交渉経過を逐一、全社員に報告することを約束していた。マイクロソフトのバルマーCEOが買収撤退を知らせるメールを社員あてに出したのは、交渉決裂報道が流れたのとほぼ同時だった。
こうした一連の動きは、現代の企業経営において、社員との情報共有の重要性が増していることを象徴する出来事としてとらえるといいだろう。
オープンなインターネットの存在を当たり前のものとして育った若い世代には、誰かと協力して何かを成し遂げようとするときに、情報を可能なかぎり全員で共有しようという風通しのいい文化がある。モチベーションの高いメンバーがすべての情報を共有すると、ものすごいスピードで物事が進み、それが大きなパワーにつながるし、イノベーションも生まれやすくなるからだ。しかも情報共有のためのコストはほとんどかからない。
ウェブ時代の覇者グーグルは、そんな新しい文化を企業経営の根幹に持ち込み、組織における情報共有の常識を根底から覆してしまった会社だ。公開企業に成長し、社員数が1万5000人を超えた今も、ごく一部の機密情報や顧客情報を除き、すべての情報を全社員がリアルタイムで共有するという組織文化を維持している。「情報共有が当たり前、情報隠蔽(いんぺい)は例外」を基本原則としたうえで、情報漏洩(ろうえい)対策などのリスク管理は同時に徹底的に行うという思想だ。
同社の驚異的な成功がこんな斬新な組織運営によって支えられていることもあり、シリコンバレーで新しく創業されるベンチャーはもちろんのこと、アメリカの大企業も、グーグルの思想から強い影響を受けはじめている。
私たちが慣れ親しんできた「組織の仕事」とは、大組織になればなるほど、重要な情報はほんの一部の人によって占有され、組織全体で何が起きているかをほとんどの社員は知らないのが普通である。組織運営もそのほうが格段に楽だった。
しかし今は、経営者の意志次第で、社員全員と素早くどれだけでも情報を共有できる道具立てが揃(そろ)っている。情報共有への姿勢は、経営者の意識の新しさをそのまま映す鏡となった。ネットになじむ若い世代は、情報共有を希求する気持ちが強い。よって若い知性を惹(ひ)きつけたいと考える頭脳産業では、組織内情報共有のあり方は、企業の創造性を左右する死活問題となった。「技術的に困難」という言い訳もできなくなり、グーグルのような革新者も現れた。私たちはそんな時代を今、生きているのである。(うめだ もちお=米ミューズ・アソシエイツ社長)

