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【竹内薫の科学・時事放談】ネット社会 ウェブ2・0の光と影

2008.2.2 08:08
このニュースのトピックスネット社会
ウィキペディアは確かに便利だが、思わぬ落とし穴に注意が必要だウィキペディアは確かに便利だが、思わぬ落とし穴に注意が必要だ

 さる雑誌の対談企画で東大教授の西垣通さんとお会いした。昨今はインターネット、特にウェブ2・0を礼賛しない人間は「時代遅れ」の烙印(らくいん)を押される風潮が強いが、『ウェブ社会をどう生きるか』(岩波新書)などの著書もある西垣さんは、是々非々でこの風潮に立ち向かうよう提言している。

 そもそもウェブ2・0とは何だろう? 一言でまとめるのは難しいが、要するに「ユーザー参加型」が大きな特徴になっている。古い、いわゆるウェブ1・0の例が、ブリタニカ百科事典のオンライン版や普通のホームページだとすると、新しいウェブ2・0の対応する例は、ウィキペディアやブログということになる(ウィキペディアは誰もが編集に参加できるインターネット事典であり、ブログは誰もが簡単に始められるインターネット日記である)。誰もが参加できるため、ウェブ2・0の考えは、インターネットからエリートを排し、情報の自由な流通により、民主的で平等で平和なネット社会を約束するのだという。

 だが、ちょっと待てよ。ウェブ2・0推進の立役者である検索エンジン「グーグル」の創設者は、スタンフォード大学出身の計算機科学の専門家たちであり、典型的なエリートではなかったか。実際、かつてマイクロソフト社が支配していたIT業界の覇権がグーグル社に移った、という意味では、あくまでも企業戦争の一環なのであり、われわれ一般庶民が手放しで喜んでいいのか疑問だ。

 作家稼業である私は、専門家が長い時間をかけて執筆したブリタニカ百科事典と、(専門家もいれば門外漢もいる)匿名の人々が日夜編集し続け、刻々と変化するウィキペディアのどちらが情報源として信頼できるのか、ずっと考え続けてきた(かつて、科学誌ネイチャーが両者を比較して、信頼性に大きな差がない、と結論づけたことは世界に大きな衝撃を与えた)。

 たとえば、私が科学書の中でブリタニカ百科事典を引用し、仮にそこに間違いが含まれていた場合、その責任はブリタニカ百科事典とその項目の執筆者も引き受けてくれるわけだが、ウィキペディアを引用して事実誤認が判明した場合、その責任は私だけにある。なぜならば、ウィキペディアの文章は、どこの誰が書いたのか、わからないからである。「三人寄れば文殊の知恵」という諺(ことわざ)があるが、西垣先生によれば、ウェブ2・0がもたらすのは機械的な「知識」の寄せ集めにすぎず、本当の「知恵」には遠く及ばない。つまり、ブリタニカには経験豊かな専門家の知恵が含まれているが、ウィキペディアには知識があるだけで知恵は含まれていない(もちろん、反対意見もあるだろう!)。

 はたして、ウェブ2・0は、本当にインターネットの未来を明るくするのだろうか? 私は、ウェブ2・0について熱く語る人の意見を聞くときに「この人はウェブ2・0というシステムのもとで大儲(もう)けしているだろうか」と考えることにしている。個人的な金儲けが絡んでいるのであれば、その人の意見は、眉(まゆ)に唾(つば)をつけて聞くに越したことはないからである。(たけうち・かおる=サイエンスライター)

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ウィキペディアは確かに便利だが、思わぬ落とし穴に注意が必要だ
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