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【経済が告げる】編集委員・田村秀男 DNAから考える金融バブル

2009.10.19 02:56

 ヒトは目に見えない「情報」により生かされている。この情報とは重さ2千億分の1グラムでしかない遺伝子(DNA)に書き込まれた暗号(ゲノム)である。DNAはいわば超超微小のウルトラ・スーパーコンピューターであり、ゲノムはそのプログラムである。人智はオリジナルな細胞1個もつくれないが、DNAは難なくやってのけ、約60兆個の細胞のヒトをつくる。神の領域に属するかもしれない、気の遠くなるようなナゾである。

 人間はおカネを創造し、カネによって繁栄する社会を営々と築き上げてきた。供給に限度がある金(きん)や銀を通貨にしている時代、人々は物欲の節度をわきまえるしかなかった。ところが1971(昭和46)年8月の「ニクソン・ショック」以来、カネは金の重量の裏付けを必要としない計算上の数値単位一般に変換した。金融資産はすべてお札と同じ金額情報の固まりとなった。

 数値情報は電子信号に置き換えられる。従ってカネは簡単に電子情報化できる。1980年代半ばのパソコン、インターネットの急速な普及とともに、カネは革命的な進化を遂げ、自由に創造され、地球規模で動き回るようになった。電子の数値情報であるカネは信用ある機関ならだれでも創造できるようになった。

 強欲に駆られたニューヨーク・ウォール街の人々はコンピューター・ソフトを使って、借金を証券化し、さらにその証券化商品用の保険商品(CDS)など金融派生商品(デリバティブ)を編み出した。住宅ローンなどの債務は証券化されると焦げ付くリスクは限りなく薄められ、市場で自由に流通する金融商品になる。となると金融商品は本来のカネである現金や預金と区別がつかない。

 金融商品を通じて米国の住宅市場に世界から富が流れ込み住宅価格上昇にはずみがついた。大手保険会社は証券化商品を保証するCDSがまるで当せん番号(焦げ付くケース)の出ない宝くじだと思い込んで乱発しては売りまくった。そして、単なる偶然か、CDSが60兆ドルを超えたとき、この新型金融バブルは崩壊した。

 もとより、「60兆」という数値に大した意味はないかもしれないが、DNAのプログラムはおよそ60兆以上の細胞をつくらず、ヒトを適度なサイズで生かしてくれている。しかもDNAはあらゆる細胞が助け合い、調和するように設計されている。その産物である人間はコンピューター・プログラムにより無限にカネを生み出そうとし、その信用を駆使しては借金し、モノを買い、消費にふけった。その揚げ句に、金融経済の大崩落を引き起こし、おびただしい数の失業者を世界中にあふれさせる。

 38億年前に出現したDNAが作り出してきた生命体の頂点にあるヒトがDNAのメッセージを無視し、欲望を無限に膨らませようとすれば、天罰がくだるのだろうか。

 恐るべきことに、史上未曾有の金融危機と1年前に戦慄(せんりつ)した人間どもは、バブル・マネーの創造システムを制御するすべを知らない。発見しようともしない。日米欧、中国、インド、ブラジルなど主要20カ国もの首脳が「G20」と称して3度も集まって議論しても、課題はせいぜい金融機関の体質強化という程度にとどまる。超自然の哲理に対して謙虚にならなければ、われわれは巨大金融バブル発生と崩壊のサイクルを繰り返すだろう。

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