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【やばいぞ日本】第3部 心棒を欠いている(5)

2007.10.2 04:07
このニュースのトピックスやばいぞ日本

 ■自国通貨の支配力失う/日中GDP逆転は5年以内

 円安でしかも超低金利。日本株は不安定。主婦のへそくりから団塊世代の老後資金運用も「貯蓄から投資へ」の掛け声に日本市場は応えられない。

 香港の銀行口座相談窓口の前であたふたとスカートをたくしあげて、おなかに巻いた円の札束を取り出す中年日本人女性。2年ほど前から、銀行口座開設を求める日本人旅行者が週末に飛んできては、土曜日午後も営業する最大手の香港上海銀行の本店や支店で列をなしていた。

 ところが先の3連休の初日の9月22日土曜、知り合いの投資愛好家4人が空港から銀行窓口に駆けつけたが、口座開設に「ノー」の返事。香港在住の日本人投資コンサルタントは言う。「この7月あたりから断られる日本人が目立ちます。手間だけかかる数十万円単位の小口日本人預金者の殺到ぶりに香港の銀行は音を上げたのです」

 日本の証券会社のホームページ。「ハイイールド・アドバンテージ」「インカム・ストラテジー」などカタカナの外貨資産運用の投資信託がひしめく。いずれも外国の金融機関の販売代行である。この7月末の外貨投信の残高は1年前に比べて約16兆7000億円増え、個人預金の12兆2400億円増を大きく上回った。

 おかげで、ロンドンやニューヨークのヘッジファンド、銀行、証券は「円」を存分に調達できる。そして世界の外為取引の5割以上が集中するロンドン、ニューヨークで円資金を好きなようにたたき売っては、より金利の高い米国債やユーロ債などで運用する。

 ヘッジファンドは金融工学を駆使するというふれこみだが、原理は単純。元手の10倍の円資金を調達して金利が円より4・5%高いドルで運用するだけで、元手の45%を利益として稼げる。

 国際決済銀行(スイス・バーゼル)の集計によれば、今年4月時点の日本での外為取引額の世界シェアはわずか6%と過去12年間で最低。円の取引額はロンドンが東京を抜いた。円の運命はロンドン、ニューヨークが決めるようになった。

 この結果、グラフが示すように、円は1997年のアジア通貨危機以来、世界の主要通貨のうちで最も安く、不安定な通貨になった。円の真の値打ちを示す実質実効相場は過去10年間の最大下落幅が39・4%、「ドル安」と言うがドルは17・8%にとどまる。米国の低所得者向け住宅ローンの焦げ付きをきっかけにした最近の国際金融市場の不安で、もっとも翻弄(ほんろう)されたのは日本市場だった。

 震源地のニューヨークのダウ工業平均株価はこの8月16日に今年最高値に比べて9%強下落したが、日経平均株価は8月17日、16・5%も急落した。

 日本の金融機関のサブプライム関連商品への投資額は少なく財務面での影響はほとんど皆無とみられていたが、欧米の投資家の頭にあるのは「円相場」のみ。ヘッジファンドがサブプライム投資の損失を埋めるためにドル資産を売り、円返済に走ると円相場が上昇する。それを見た他の投資家は円安だけが取りえの日本株の売却に転じた。

 19世紀、大英帝国は低金利の資本を世界に供給し、その収益で栄えた。が、現代の債権大国日本はみずからの富を流出させる構造をつくってしまった。

 円という通貨の主権国日本が、円を支配する能力を失ったからである。

                   ◇

 ■「日中GDP逆転は5年以内」

 グローバル化が進んだ今、日本の市場が円を支配しなくてもやむをえないとの見方もある。

 だが、変動相場制でもその国が通貨安定に総力を挙げる。米国はドル価値維持のために外国投資家や政府機関がドル資産を買うようあらゆる手を打つ。欧州は金利を高めに設定し、統一通貨「ユーロ」を安定させて、景気を拡大させている。

 日本では、今春、大手、新興を問わず決算発表も満足にできない上場企業が続出した。売買シェアの7割を占める「外国人投資家」は短期売買に徹する。

 日銀は円相場安定につながるはずの超低金利是正の時機を見失った。

 有力経済紙がこう書く。「円安になれば外貨資産運用が有利」「多国籍化した日本企業は海外子会社を含め大幅増益」などと。

 だが、それらは通貨という国の血液をダンピングして売った代償でしかない。いわば円安によるバブルであり、円高になれば一夜にして損失に転じる恐れがある。円安の受益者も実際には限られ、その他大勢にしわ寄せされる。

 円安のために原材料調達コストが上がっても、ユーザーから値上げを認めてもらえない。自動車部品業界筋によると、1グラム当たりの自動車価格はこの20年来、1円から2円の間で不変。「完成車メーカーからの圧力で逆に値下げさせられる」。化学品メーカー筋は「プラスチック素材『ポリマー』の出荷価格は、0・2円で自動販売機のミネラル・ウオーターと同じ」と嘆く。円安下でのデフレ、格差が進む。

 国際通貨基金(IMF)の統計によると、日本のこうした交易条件の下落率は2000年以来の7年間で32%に上り、米国の4倍。これに伴い日本の国富喪失額は88兆円に上るという。

 中国は2006年、政府ベースでは米国債の最大の買い手になった。

 昨年日本を抜いた中国の外貨準備は毎月500億ドルも膨張し、外貨準備を支配・管理する北京の意思が直接、米金融市場に影響する。この4月から6月、中国はそれまで買い増しし続けてきた米国債を突如売りに出た。

 ワシントンでちょうど人民元対中制裁の動きが盛り上がった時期である。市場は動揺し、中国を筆頭にアジア各国が米国債離れをみせるのではないかという不安が流れ、7月には米国債相場が急落した。

 その後、米議会は軟化し、人民元問題を米政府に世界貿易機関(WTO)へ提訴させるという、実効性に乏しい法案でお茶を濁した。中国はマネーパワーの手応えをつかんだ。

 円安が進んだ2006年。IMFがドル建てで計算した日本の国内総生産世界シェアは2006年9・1%だ。1995年から半減した。対照的に中国は5・5%と倍増した。「日中の経済規模の逆転時期はこのままいけばあと5年以内に来る」との見方がウォール街では常識だ。

 対米関係、さらにアジアにおけるみずからの位置を考えるとき、弱々しく大きく振れる円は実は悲痛な目覚まし時計である。(田村秀男)

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