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【正論】銀行証券業の大革新を要望する 京都大学名誉教授・市村真一

2007.8.25 05:02
このニュースのトピックスノーベル賞

国際金融のできる人材育成が急務

 ≪「国際金融」が混迷の主因≫

 今の日本、心配事が多い。内政に限ってみても、第1、人事の失敗を主因とする自民党の大敗による政治の混迷。第2、教育基本法改正に続くべき徳育復興や歴史教育の改善が、それを不要とする中教審会長の下で遅滞しそうなこと。第3、年金と財政という国政基盤の再建の先送り。第4、日本経済は1990年代の長期停滞を脱したが、世界にまれな低金利が持続し健全な成長路線にまだ戻れない、などである。

 今回は、この最後の日本金融の混迷の打開策を論じる。

 実は、この8月2〜4日シンガポールで、アジアの有力な学会誌シンガポール・エコノミック・レビューの創刊50周年記念の会議があり、招かれて参加した。驚いたことに国際金融が主要テーマであった。冒頭の基調講演はノーベル賞のコロンビア大学スティグリッツ教授の国際通貨基金と米政府の金融政策批判であり、初日の昼食会の記念講演が、スタンフォード大学マッキノン教授の「日本の長期不況後遺症、低労賃の持続、延々と続く低金利」であった。

 これは今の世界経済の混迷の主因が国際金融にあるとの主催者の判断によるが、私を含め、賛成者は多い。特に問題は国際通貨基金の運営、米政府と日本の財政金融のあり方である。もちろん中国元など他にも課題は多く、現在の国際金融は決して安定していない。本論の執筆中にも、世界同時株安が再来した。

 世界経済は、生産面での成長は3%前後を維持していて健全だが、金融面では数十年危機を反復してきた。

 ≪国際通貨基金は機能せず≫

 最近の主な金融危機を列挙すると、(1)70年代の2つの石油危機により巨額のドルが産油国からスイスや米国に流入、中南米に累積債務問題を起し、処理に失敗した米銀行が破産(2)79年ポーランド債務危機(3)80年代半ばの米国の貯蓄貸付組合の危機(4)90年代初頭日本のバブル経済崩壊と、続く長期不況(5)94年メキシコの金融危機(6)97年タイに始まる東アジア数カ国の金融危機(7)98年ロシアの金融危機(8)同年ブラジルの金融危機(9)同年米国のヘッジファンド「LTCM」の破綻(はたん)−などである。

 通覧すれば、国際通貨基金中心の今の国際金融の調整機構がこれらの金融危機を適切に処理できなかったことは明らかである。いわゆる「コンディショナリティ」による自由化一辺倒の政策提言は、不適切な場合が多かった。しかし他方、民間金融機関だけでも十分に対応できないから、世界経済の運営に必要な国際金融システムはまだ構築されていないのである。

 まず通貨基金や米銀行依存から脱却したのはEUである。彼らは中央銀行を設立し、自らの通貨圏を構築し、その内部の危機には対処できる態勢を作りあげた。米国は北米自由貿易協定(NAFTA)をつくり、その拡大に努力しているが、金融面のバックアップには成功していない。東アジアは、97年危機にこりて、チェンマイ・イニシアチブという短期融資の協力体制をつくったが、それでは不十分である。急拡大しているアジア経済が、危機に陥ったときに要する資金は巨額だからである。

 ≪弱い日本の直接融資力≫

 資金がアジアにないわけではない。97年当時とは様変わりし、今は中国も日本も東南アジア諸国連合の各国も外貨保有は十分である。ただそのほとんどがドルで米国債や証券に投資されている。東アジアの貿易相互依存は欧州並みに高いが、資金需給は自立していない。

 問題は、最大の資金供給国日本の金融機関の直接融資能力不足にある。1700兆円を超す厖大(ぼうだい)な金融資産は、ほとんどが超低利の定期預金で眠っている。アメリカや欧州では、定期預金や国債でも5%以上が多い。目覚めた一部の預金者が外貨での運用を開始したから、日本の為替レートが低下した。だが、まだわが国の外貨建ての資産運用の報酬率は欧米より低い。外国の金融機関に高い運用手数料を払うからである。

 日本の銀行証券業が、外銀や外国証券やヘッジファンドと組まずに高利潤を獲得できれば、それを日本の預託者に還元でき、超低金利の不自然を解消し、消費を刺激できる。

 何故それができないか。人材不足である。製造業が優秀な技術者なしに繁栄できないのと同様、銀行証券業も欧米並みに新商品を開発し、融資先の成功見込みを評価し、内外の新企業の的確な情報の調査網を構築せねばならない。それができる人材養成こそ目下の日本金融界の急務なのである。

 (いちむら しんいち)

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