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【産経抄】7月15日
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不世出の大横綱、双葉山の実家は、大分県で回船業を営んでいた。10歳のときから、父親と帆船を操り、暴風雨のまっただなか、海にほうり出されて九死に一生を得たこともある。昨年11月に70歳で世を去った稲尾和久さんは、別府の漁師の息子として生まれた。
▼素人相撲の横綱だった父親が、少年時代の双葉山に投げ飛ばされたという伝説も残っている。稲尾さんもまた、8歳で父親と伝馬船(てんません)に乗り、櫓(ろ)をこぎ始めた。のちに黄金時代の西鉄ライオンズで、「鉄腕」の異名をとった稲尾さんの最大の武器は、針の穴をも通すといわれた制球力だった。
▼その源になったのが、少年時代の櫓こぎで鍛えた足腰の強さだったといわれる。もっとも当時は、野球選手になるとは夢にも思っていない。「右だ、左だ、前へ、遅く、速く、止めろ。指示通り操船できないと、おやじの青竹が頭に飛んでくる」。
▼日本経済新聞の「私の履歴書」で、つらい体験を振り返っていた。エンジン付きの漁船を操作する今の漁師さんには、そんな苦労はないけれど、別の悩みが次々と持ち上がっている。海の汚れに、後継者難、何よりこの5年で3倍近くになった燃料費の高騰だ。
▼全国20万隻の漁船が、きょう一斉に休漁するのは、窮状を国民に訴え、政府に必要な対策を求めるのが目的だ。もっとも、原油高に苦しんでいるのは、漁業者だけではないから、政府は燃料代の補充には慎重だ。そうかといって、魚の値段に上乗せすれば、消費者の魚離れに拍車がかかる恐れがある。
▼少年時代の稲尾家の食卓には、魚のあらの煮付けが毎日並び、夕食は肉だったという友達が、うらやましかったそうだ。今に、魚の煮付けの夕食を、うらやむ日が来るのだろうか。