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【わが道わが友】資生堂名誉会長・福原義春氏(5)
■「ホスピタリティ」を考える
平成元年からスタートした日伊ビジネス・グループ(IJBG)ミーティングの日本側議長を務めている。14年の総会で伊社会学者のフランチェスコ・アルベローニさんが行った基調講演が印象深い。
彼は「皆さんはイタリアに来て、史跡・美術館などの文化資産めぐりや、買い物、食事を楽しんで帰る。しかしながら、私たちは外国人旅行者のために特別なことをしているわけではない」と語った。イタリア人は個人主義を尊重するがゆえに、自らを装うためのファッションが洗練され、快く食事をするための料理が工夫され、自宅に客を招いて楽しむための室内装飾が発達した、という。
自分たちの求める価値を実現するためにしていることが、外国の人々のあこがれを誘うのだと悟った。たとえ「もてなす」意識がなくても、「もてなされた」と受け止められる。それが「ホスピタリティ」と呼ばれるものに通じるのかもしれない。
「サービス」は、提供する側からの一方通行で自己満足に陥りがちだが、受け手側に生まれる感覚が提供する側と呼応し合い、受け手側の自己実現につながった場合に、「ホスピタリティ」に発展する。それを自分の生き方、あるいはビジネスで、どう実現していくかが工夫のしどころなのだ。
20世紀の半ばから、供給が需要を上回る「選択需要」の時代に入った。そして、企業は機能や品質を競い合うようになった。やがてそれも成熟化すると、過剰生産の矛盾は、値引きや景品、配達など、目に見え、費用を伴う「サービス」の量で解決されはじめた。ただ、これらはすべて相対価値の競争である。顧客は再び不感症になり、より多くを求め、結果、社員も企業も疲弊する。これでは経営そのものや商品のコンセプト、品質に影響を及ぼさないわけがない。顧客のためにもならない。
それより、企業は顧客から「どうしてもそれが欲しい」といわれる絶対価値を生み出すべきだ。不特定多数ではなく、顔の見える顧客に1対1で対応し、“過剰”が副作用につながらない競争だ。心配りによって顧客の自己実現を達成させ、自らにも幸せをもたらす。このテーマに関して東京芸大客員教授の山本哲士さんは「国際ホスピタリティ研究センター」を創設して研究を行っている。富士ゼロックス相談役最高顧問の小林陽太郎さんをはじめ、多くの方々がこの研究に賛同している。
私が関心を持っていることを突き詰めてゆくと、「人間とは何か」という問題に収斂(しゅうれん)される。私のアンテナにかかった興味深い考えを私なりに解釈し、それを社会に還元していると、「役に立つ」と言ってもらえることもある。それが楽しい。(吉村英輝)
※次回13日からは、経済同友会代表幹事でリコー会長の桜井正光氏です。

