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【棋聖戦・梅田望夫氏観戦記】(1)桂の佐藤棋聖、銀の羽生挑戦者 (5/5ページ)

2008.6.11 10:21
このニュースのトピックス囲碁・将棋
報道控え室で第一局の原稿を書く梅田氏 =11日午前、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)報道控え室で第一局の原稿を書く梅田氏 =11日午前、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)

 そして将棋と自らの人生を語るとき、佐藤さんは「なんでこういうもの(将棋というもの)が、この世に存在してしまったのだろう」とつぶやくことがある。小学校のときに将棋の魅力にとりつかれて早30年以上、この言葉は、将棋の魅力にとりつかれてしまった佐藤さんの実感なのだと思う。

 羽生さんも同じだ。

 あるとき羽生さんと食事をしていたとき、中盤の難所での大長考に、話題が及んだことがある。羽生さんが、中盤で大長考したあと、そのまま一気に勝ってしまった将棋が話題になっていたのだ。

 座談の輪の中の誰かが、「中盤の大長考で、その先の勝利を読み切ったんですね」という発言をしたとき、羽生さんの目の色が変わった。少し怖い感じがしたから、よく覚えている。

 羽生さんは「将棋の奥の深さ」についての誤解が、会話の中に混ざると(たとえそれが羽生さんを称賛する文脈であっても)、それを敏感に察知する人なのだ。そして、特有の少し甲高い声で、しかし強い口調で、

 「中盤で、そこから先の変化をすべて詰みまで読んで、勝利を確信するなんてことは、絶対にできないものなんです。そんなに将棋って、単純なものではないんです」

 そう羽生さんは力説した。

 過去の将棋の戦法研究の歴史を振り返りながら、いかに将棋の奥が深いものなのか、何十年かけたって一つの戦法の奥義を解明できないことを、素人にもわかるように、懇切丁寧に、しかしこれだけは絶対に譲れないことなんだぞ、という強い意志を持って、15分、20分かけて、羽生さんは、それこそとりつかれたように語るのだ。

 対局場の和服姿の2人の凛とした姿を見つめながら、私はそんなことを思い出していた。

 さあ、いよいよ棋聖戦第1局が始まった。

 棋聖戦は五番勝負である。

 第1局と、2勝2敗になった場合の最終局だけ、振り駒で、どちらが先手になるかが決まる。

 記録係の田嶋尉三段(奨励会)が、佐藤棋聖の五枚の歩を取って、手の中で5枚の歩を振り、空中にそれを投げ上げ、絹の白布のうえに5枚の歩がばら撒かれた。「と金」が4枚、歩が1枚。羽生挑戦者の先手が決まった。

 ほどなく中村修立会人の発声で、対局開始となり、羽生挑戦者は▲7六歩と角道をあける。カメラのフラッシュがいっせいにたかれる。佐藤棋聖は少考して△8四歩。

 あっ、今日は矢倉になるのかあ、と思った。

 しかし羽生挑戦者は、▲6八銀で矢倉にするのではなく▲2六歩と飛車先を突いた。「矢倉にはしませんよ。角換わりの将棋にしましょう」

 最初の3手には、そういう意味がこもっている。かくして今日は、後手一手損角換わりの将棋になった。

 持ち時間4時間の棋聖戦では、戦形が決まれば、初手からすらすらと手が進んでいく。対局開始からわずか20分で、17手も進んでいる。先手羽生挑戦者の早繰り銀の将棋になった。

 早くも、羽生さんの「銀」の動きを注目すべき将棋になった。19手目、羽生さんの「銀」はもう4六の地点まで前進している。

 (うめだ・もちお=米ミューズ・アソシエイツ社長)=(2)に続く

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佐藤康光棋聖に羽生善治王座・王将が挑戦する第一局。中央は観戦記を執筆する梅田望夫氏=10日午後、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)
佐藤康光棋聖に羽生善治王座・王将が挑戦する第一局。観戦記を執筆する梅田望夫氏らを交えて談笑=10日午後、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)
報道控え室で第一局の原稿を書く梅田氏 =11日午前、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)
佐藤康光棋聖に羽生善治王座・王将が挑戦する第一局。観戦記を執筆する梅田望夫氏らを交えて談笑=10日午後、新潟県新潟市岩室温泉の高島屋(撮影・瀧誠四郎)

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