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【棋聖戦・梅田望夫氏観戦記】(1)桂の佐藤棋聖、銀の羽生挑戦者 (1/5ページ)
ときは2008年6月11日午前9時。ところは新潟県新潟市高島屋。
佐藤康光棋聖・棋王(2冠)に、羽生善治王座・王将(二冠)が挑戦する第79期棋聖戦が、今日ここで開幕した。
将棋界最高峰の2人の世紀の対決を、2つの最高頭脳が火花を散らす現場に身を置き、観て、報告するために、シリコンバレーから日本にやってきた。今回は、本当に、そのためだけに。日本を離れて早14年になるが、仕事抜きで日本にやってきたのは、これが初めてのことである。
半年ほど前のこと。産経新聞の元旦紙面用に行った佐藤康光棋聖とのお正月対談を終え、その緊張がほどけ、くつろいだ雰囲気になったとき、佐藤さんから、「梅田さん、今年の棋聖戦をぜひ観にいらっしゃってください。それでネット観戦記を書いてくださいよ」と言っていただいた。
私は、将棋への愛着、将棋を観ることにかけての情熱にはかなり自信があるのだが、将棋を指すことからはもう20年以上も遠ざかっていて、棋力にはぜんぜん自信がない。せいぜいアマチュア初段あるかないかくらいだろうと思う。そんな私が、棋界最高峰の戦いに立ち会うことが許されるのだろうか。佐藤さんの言葉に対してとっさに思いついたのはそんなことだった。
しかしふと思った。私のような人間は、あんがい世の中に多いのではないかと。
将棋という文化は、日本社会に、日本人の心に、本当に深く根付いた、素晴らしいものであると思う。小学校のとき、中学校のとき、将棋の楽しさを経験して、将棋に魅了された人たちは本当に多い。私もそんな一人だ。
しかし、そういう人たちの中で、大人になっても将棋を指し続ける人は少ない。高校、大学で将棋部に入ったり、社会人になっても将棋道場に通ったり、将棋倶楽部24でネット将棋を指したりしながら、将棋を指す腕を磨き続ける人はそれほど多くない。普通の人は、十代の後半くらいから、それぞれの人生を生きる忙しさの中で、遠くから将棋を眺めるようになる。でもひそかに将棋に注目し、棋士たちの活躍に、将棋界の動向にわくわくしている人は、本当に多いのだ。でもその姿がなかなか見えにくい。
人気テレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演したたくさんの人たちの中から、羽生さんの回が視聴者選出のベストワンに選ばれたり、佐藤さんが出演した「情熱大陸」の視聴率がいつもよりも高かったことは、その証左だと思う。
そして私は思った。「忙しい日常を暮らしながらも、将棋への興味・関心を、ひそやかにずっと持ち続けている無数の将棋ファン」(なかなか見えにくい潜在的ファン層)を代表して、もしも旧知の羽生さんが佐藤さんに挑戦する棋聖戦になるのであれば、その時期の仕事をすべてキャンセルして日本に来よう。そして棋聖戦でのお二人の戦いをこの目で見よう。そう心の中で誓ったのだった。果して羽生さんが挑戦権を手にし、ついに今日、それが実現した。




