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【産経抄】4月5日

2008.4.5 02:09
このニュースのトピックス産経抄

 「趙治勲」という名前は囲碁を知らない人でも、一度は聞いたことがあるだろう。6歳で韓国から来日し11歳で入段、これまで獲得したタイトルと棋戦優勝回数は、日本最多で70を超える。文字通り囲碁界の第一人者であり続けたからだ。

 ▼3年前には、48歳で7大タイトルのひとつである十段位に返り咲いた。今年は棋聖戦の挑戦者にも名乗りをあげ、ファンを驚かせた。何しろこの世界は今「四天王」と呼ばれる30歳前後の若手の時代になりつつある。それに待ったをかけたのだから、もう「中年の星」だった。

 ▼碁盤に向かうと、一手一手に最善をつくそうとするため、最後は持ち時間がなくなり「秒読み」に追われる。頭をかきむしり、自らを叱咤(しった)しながら打つ。碁の中身も、キャリアでごまかそうとなどせず、真っ向から戦いを挑む。若々しく、荒々しい碁風である。

 ▼そんなところも人気の的だったのだが、一昨日の十段戦で四天王の一人、高尾紳路新十段に敗れた。棋聖位も取れなかったから、とうとう「無冠」である。局後には「若い人が強くなって困ったものですよ」と、ちょっぴりユーモアを交えながら話していたという。

 ▼沢木耕太郎氏が趙さんのことを書いたノンフィクション『帰郷』によれば、かつて後輩たちにこんなことを語ったそうだ。「地球に朝が来るように、世界は常に若い力を欲している」。だから若い人に負けるのは当然だが、若い人が年長者に負けてはいけないのだと。

 ▼その意味では31歳の新十段に負けたのは本望かもしれない。しかし中国や韓国に対し劣勢気味の日本の囲碁界のためには、まだまだ若手の前に立ちはだかってもらわねばならない。いや、どの社会でも今「趙治勲」的存在が必要なのだろう。

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