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【囲碁十段戦】高尾新十段 あこがれの大棋士倒し栄冠
趙治勲十段が投了を告げても、青ざめた顔が笑顔に変わるのに少し時間がかかった。「まだ実感はわきません…。(5年前)初めてのタイトル挑戦がこの十段戦だったので(獲れて)よかったと思います」
“若手四天王”のひとり。十段戦はこれまで唯一、四天王の誰もが獲得できずにいたタイトルだったが、ついに最初の勝ち名乗りを上げた。「十段戦は思い入れのある棋戦ですから」。喜びがゆっくりこみ上げてくる。
大棋士・趙治勲は「あこがれの人」という。そのためか、快勝にもかかわらず、対局直後は「最後まで自信はありませんでした」「全然ダメでした」と控えめな答えばかり。常に時間を目いっぱい使い、妥協を許さずに戦い続ける趙の迫力に学ぶことは多かったに違いない。
終局後は必ず師匠の藤沢秀行名誉棋聖への電話報告を欠かさない。厳しい指摘を謙虚に受け止める。手厚い碁風は師匠ゆずりだ。
四天王の中で一番出遅れていた。こんなエピソードがある。5年前、新潟市の旅館で行われた十段戦第1局。初挑戦の初戦に敗れてひとりタクシーを頼み、「もう来られないかもしれない」と若女将に弱音をはいた。
くしくも今回、同じ宿での第1局。「本因坊になられて立派になって帰ってこられて」と声をかけられ、「そんなことありましたっけ」と喜んだ。
今期五番勝負の初戦に勝ち、宿のノートに「大道無門」と揮(き)毫(ごう)した。禅の言葉で、真理の世界に到るにはどこからでも自由という意味だ。
5月には次なる戦いが待っている。本因坊戦。四天王のひとり、羽根直樹九段が挑んでくる。(保坂勝吾)

