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【書評】『きんぴらふねふね』石田千著
■ゆるく楽しむ食べ物の話
食べ物の話を読むのは好きだ。これまでの読書経験から思うのだが、食べ物のことを書いている本において、実際にはその人本人が一番出るようだ。生活の上で一番大切なのが食べるということだから、自分が出て当然なのだろう。
本人が何を食べているのかにすべては現れる。それが美味(おい)しいかどうかはそれぞれの好みであり、好き嫌いがあって当然だ。
石田千が食べ物の話を書いて、面白くないはずがない。その視点の面白さはこれまでの石田の著書が証明している。石田千の文章の魅力は、視点の面白さである。屋上に上ったり、踏切にこだわったり、あまり普通の人がやらないようなことを面白く書く。それが魅力で、多くのファンを獲得している。
石田千のどの文章も、書き出しの1行がとにかくいい。それだけを拾い読みしてみて、なるほどと感じた。
「ふつか留守をしたら、からだは重たい」「馬券があたって、にわか景気に踊る夕方、すしやののれんに誘われる」「電車を乗り換え、たどりつくと、泥だらけの長靴がころがっている」「風が草いろになる。競馬に行きたい」「どのくらい好きかときかれたら、ビールとおなじくらいという。ならば、どれほどビールが好きか、かさねてきかれる」「梅雨にはいると、ぼんやりに磨きがかかる」
こうして冒頭の部分だけをまとめて読んでみると、本人の魅力が溢(あふ)れていることがさらによく分かった。今回、初めてそうした読み方をしてみて、ここに作者がどれほどのエネルギーを注いでいるかもよく分かった。
こうした細かいところにこだわりを持つのも石田千の良さであり、それが魅力でもある。そこが好きな人は石田千にはまり、次から次と作品を読みたくなり、新作が待ち遠しくなってしまう。
この一冊を読むだけでも、食べ物の話を楽しみながら、ゆったりとした、世間でいうところの“ゆるキャラ”であるような石田千の文章の魅力の虜(とりこ)になってしまう。(平凡社・1680円)
評・松垣透(編集委員)

