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【著者に聞きたい】栗山章さん 『テロリストは千の名前を持つ』
■友人の死が生んだ国際小説
2001年9月11日。当時、栗山さんはニューヨークのマンハッタンまで、地下鉄に乗って17、8分の距離にあるクイーンズという駅の近くに住んでいた。
「朝、テレビ局に勤める友人が電話をかけてきて、世界貿易センタービルが燃えてるぞって教えてくれたんです。最初は、アマチュアパイロットのプロペラ機でも突っ込んだのかなって思いました」
夕方までには、多くの知人や友人から連絡が殺到し、日本の新聞社や雑誌社からは、記事を書いて送ってくれという要請が重なった。
実際に現場を訪れたのは、事件から3日後の夕方だった。地上からはまだ、煙がもうもうと上がっていて、建物の残骸(ざんがい)の窓には灰燼(かいじん)がびっしりと積もっていた。「一見、SF映画の一シーンみたいでしたけど、これは紛れもない現実なんだ」と思い知った。
事件で栗山さんは、ニューヨーク市消防隊の32歳の消防士の友人を失った。「長い付き合いでした。出動命令を受けて現場に急行した彼は、壊れた非常ドアの前で、ビル内に取り残されている人々の救出作業を進めている最中に殉職したんです。遺体は今も見つかっていません」
彼の死が、物語を書くきっかけになった。1年後に構想を練り始めるが、途中で病魔に倒れて中断を余儀なくさせられる。1年ほどのブランクをへて、再び構想をまとめなおし、執筆に着手。原稿が完成したのは今年3月だった。
ここには、2001年9月11日のシーンはない。その直前までに「ニューヨークで暮らすひとりの無力だが純真な日本人留学生の青年が、起こり得たかもしれない1つのテロを未然に防ぐまでの物語」になった。もちろん、完全なフィクションである。読後、「テロという行為のむなしさと、それを取り締まる側の思い上がり」が胸に満ちる。邦人作家による、希有(けう)な国際小説になった。(河出書房新社・2048円)
宝田茂樹
【プロフィル】栗山章
くりやま・しょう 昭和10年、福岡県生まれ。プロデューサー、作家。著書に『カラスを撃つ男』など。

