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【週末読む、観る】テス・ギャラガー著『ふくろう女の美容室』
■無駄話に興じる女性たち
テス・ギャラガー著『ふくろう女の美容室』橋本博美訳(新潮クレスト・ブックス・1995円)
評・青山南(翻訳家)
都会の美容室は、日本ではこのところ、美を磨きあげる洗練された空間として注目されることが多くなっているが、もともとは、そして都会以外ではいまもなお、女性たちが無駄話に興じる交流の場だ。
アメリカでも事情はおなじで、『ふくろう女の美容室』に登場するふたつの美容室(表題作のと「生きものたち」のと)はそんな場所である。表題作のほうではたわいない話が行き交う美容室ののどかな時間が、「生きものたち」のほうでは、逆に、たわいない話がすさまじい暴力へと変わっていく瞬間瞬間が描かれる。とくに後者の緊迫した展開は圧倒的だ。
著者は、故レイモンド・カーヴァーの妻でもあったので、そのかかわりで読むと興味をそそられる短編やエッセーも入っている。そういう意味では、カーヴァーのファンにはたまらない魅力に満ちた書だが、とりわけ注目したいのは「キャンプファイヤーに降る雨」なる短編だ。カーヴァーの作品に「大聖堂」というのがあり、それは妻の昔の知り合いである盲人の男の突然の来訪で夫が動揺する様子を緻(ち)密(みつ)に追いかけた傑作なのだが、「キャンプファイヤー」は、いわば、それの別バージョン。
「ミスターGが、継ぎはぎだらけにしてしまった物語を、私は今からきちんと元通りにしてお話ししたいと思う」
こういう書きだしからして、うまい。読者が、「ミスターG」とはカーヴァーのことなのだな、と考えつつ読むだろうことを想定にいれて、話を進めていく、ある意味、一種のメタフィクション(小説の成立についての小説)である。
とはいえ、カーヴァーの作品など知らなくてももちろん、たっぷり楽しめる。やさしさと官能に満ちあふれたラストは、カーヴァーの「大聖堂」のすばらしいラストに勝るとも劣らず、スリリングだ。
故レイモンド・カーヴァーの妻の作品集としてというより、テス・ギャラガーの作品集として玩(がん)味(み)したい一冊である。
Tess Gallagher 1943年、米ワシントン州生まれ。『馬を愛した男』など。
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