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【青雲の大和】(277)巨船が行く (1/2ページ)

2008.8.19 04:14

 秦(はた)は文麻呂(ふみのまろ)の顔をみた。

 文麻呂は首を振った。

 −−知らない、

 というのである。

 穴門(あなと)の民は三年間、税と労役を免ぜられているというが、内臣(ないしん)鎌足(かまたり)の指令で派遣されてきた二人がそれを知らされていないのは、どういうことか。

 公地公民制と班田(はんでん)の収授は、大化改新の根幹をなす制度である。これが徹底して行われることによって、その見返りとして民に納税と労役、兵役の義務が生じる。

 この制度をもとに、ようやくにして新しい国家の体制ができあがりつつあるときに、ここ穴門の国にあっては、すべての民に税と労役が免除されているというのである。

 国家を支えるおおもとの制度が、穴門ではなおざりにされてしまっている。それも白い雉(きじ)がみつかったという、他愛もないことのために、である。

 雉一羽で三年ものあいだ無税になり、労役にでなくてよいとなれば、民は皆、吉兆瑞祥(ずいしょう)をさがしもとめて山にはいり、まじめに働く者はいなくなってしまうではないか。

「穴門守(かみ)にもうしあげる。われわれはここ穴門で調役(えつき)が免ぜられているとは、きいていない。そのようなことはありえないと思っている」

 国司(こくし)草壁(くさかべ)の生白(なまじろ)い顔にむかって、秦は憤りを吐きつけるようにいった。

「ありえないといってもね、実際そうなっているのだから、よろしいではないか」

「それ、なにかのまちがいではないか。政(まつ)りごとのすべてをにぎる内臣、中臣(なかとみの)鎌足どののもとに達していないという、そのようなことはありえないのである。調役の免除はただちにやめるべきである」

「秦氏、あんたね、難波(なにわ)の都で、どれほどたいそうな役についているのか知らないが、冠をみるかぎりではわしより下だ。わしより下の者がそんな大口をたたいてよろしいのか。穴門のすべての民に三年の調役を免ぜられたのは、ほかならぬ大君ご自身であるぞ。畏(おそ)れおおくも大君おんみずから、穴門守であるわしに告げられたのである」

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