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【直木賞の井上荒野さん】「父には書けないものを」
受賞作の舞台は、父で作家の故井上光晴の故郷、長崎県の炭坑の島・崎戸。高校生から大学生のころ、父がノートに書いた作品を、原稿用紙に書き直すアルバイトをしていたことが、作家としての基盤を作る修業となった。敬愛する作家は父である。
父から島の話を聞いていた。亡くなった次の年の平成4年に初めて島を訪ねた。デビューから約20年。この時期だからこそ書けた作品だという。今までにない手応えを感じた。
「父には書けないものを書いた。こわもての人で、フェミナ賞授賞式のときも、普段は『賞は権威になる』と批判していたから、式に出席したくてもできない。気の毒なほど悩んでいた。でも、生きていたら、直木賞の知らせに狂喜していたと思う」
具体的な物語の構想ができあがったのは、今から約7年前。結婚したころだ。大切な人と暮らす幸福感の一方で、「もしも、互いに別に愛する人が現れたら…」と考えたとき、恐怖感に包まれた。
「何もない日常は、ぐっと近くに寄ってみたとき、実はドラマチック。見えないものや物語とは別のところにあるものを表現したい。ドキドキ感や嫌な気持ちを感じてもらえるような作品を書く作家でありたい」(舛田奈津子)
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いのうえ・あれの
昭和36年、東京都生まれ。成蹊大学卒。平成元年、『わたしのヌレエフ』でフェミナ賞を受賞しデビュー。作品に『ひどい感じ 父・井上光晴』など。東京都在住。


