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【週末読む、観る(4)】本谷有希子『グ、ア、ム』 (2/4ページ)
■【旬を読む】本谷有希子『グ、ア、ム』(新潮社・1365円)
○書評家 江南亜美子
若手劇作家による小説が話題となることの多い昨今、そのブームを牽引(けんいん)する本谷有希子の8冊目の小説作品は、父親を留守番に、今は別々に暮らす成人した姉妹と母親が2泊3日のグアム旅行に赴く話−−なのだが、お気楽なバカンス小説からは程遠い。
「無防備な人」である長女と「現実主義な人」である次女は、性格も違えば労働面での格差も抱え、このところいよいよソリが合わない。「折衷主義な人」である母はその間で右往左往。一触即発、みな初めての海外旅行、次女は歯痛、母は生理、しかも降り立ったそこは生憎(あいにく)の大雨! まるで出身地北陸の湿った気候を彼の地まで呼び込んだかのような非情な事態に、長女は「畜生!」と舌打ちする。
視点が自在に移動することで、登場人物の個性が立体的に立ち上がり、三者三様の心のうちが次第に読者に了解されてゆく。ロストジェネレーション世代と分類され、ふだんは東京のスパで垢擦(あかす)りバイトをする長女が「就職難どうやって乗り切ればよかった? 氷河期どうやってあっためればよかった?」と自身の不遇を逆ギレ気味に嘆けば、姉を反面教師に高卒での信用金庫勤めを選んだ次女は、「おかんに、いい思い出、作ってあげんけ」ときびしい眼差(まなざ)しを姉に向ける。天候と体調の不良は、3人を大海に解放してはくれず、暗雲は室内にも垂れ込むばかりだ。
小林多喜二の『蟹工船』がいま、20万部超の売り上げだそうだが、格差社会の縮図を姉妹間に持ち込んだ本谷のセンスは秀逸だ。電話越しの父親に「我が家のワーキングプア」と呼ばれたことを、「いつもの脳内のエアポケット」に入れ忘れようとする長女。チャモロ族内の3つのヒエラルキーの案内文を、姉に見せまいとする妹。ただし正社員すら就労関係における判然たる勝ち組となりえないのと同様、次女もまた生ぬるい日常に、軽く絶望している。
「3」は、本作品において重要な数字である。3人旅、3線が交わる御茶ノ水の景色、チャモロ族、過去現在未来を象徴するトリロジーダイヤのネックレス。穿(うが)たれた読点は、快楽的な常夏の楽園グアムを「グ、ア、ム」に分裂させる。
失調と失笑に彩られた3日間を、独特のスピード感とユーモアをもって描きだした本谷の腕に、ただ感服。笑えるのに切ない、2000年代の家族旅行小説の誕生である。
えなみ・あみこ 昭和50年、大阪府生まれ。近畿大学非常勤講師。共著に『日本文学にみる純愛百選』。