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【週末読む、観る(4)】本谷有希子『グ、ア、ム』 (1/4ページ)

2008.7.6 10:36
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■【仕事の周辺】穂村弘(歌人)〈中〉 

 新しく知り合ったひとに職業を尋ねられると、一瞬、怯(ひる)む。「歌人です」と答えても、必ず聞き返されることがわかっているからだ。「カジン」=「歌人」と、一発で脳内変換できるひとはまずいない。パソコンの辞書だって「家人」や「佳人」から出してくる。一般社会に生きるほとんどのひとは、「歌人」などという生物と現実に遭遇することは考えてもいないのだ。

 そこでなるべく穏やかに「短歌をつくっています」という答え方をする。それでも大抵の場合、きょとんとされてしまう。「お仕事は?」と尋ねて、「凧(たこ)を揚げています」とか「剣玉をやっています」とか答えられたような気分なのだろう。まあ、そうだろうなあ。

 短歌をつくっていて救われるのは、突然歯が痛くなったり、夜中に脚が攣(つ)ったり、訳もわからず虚(むな)しくなったり、恋人にふられたりしても、それを作品にすることで、元がとれるところだ。

 いま我を知る人は無し夜半起きてこむらがへりに呻(うめ)きゐるわれ

       高野公彦

 したあとの朝日はだるい自転車に撤去予告の赤紙は揺れ

       岡崎裕美子

 好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ

       東直子

 最初の歌は真夜中のこむら返りを、次の歌はセックスの虚しさを、最後の歌は失愛の痛みを、それぞれ詠っている。どのような痛みや虚しさも、それを五七五七七のリズムに乗せることで言葉の宝石のように結晶化させることが、少なくとも潜在的には可能なのだ。

 我々が生きている間には、愛するひとを亡くすとか、不治の病にかかるとか、非常に厳しい出来事に遭遇することもあり得るわけだが、日本の歌の歴史を顧みたとき、特に大きく美しい宝石の幾つかは、そのような体験のなかから生み出されている。

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