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【週末読む、観る(3)】話題の本『岩佐又兵衛』 (3/4ページ)
■【書評(1)】『家族の終わりに』リチャード・イエーツ著、村松潔訳(ヴィレッジ・ブックス・1575円)
◯評・池央耿(翻訳家)
知る人ぞ知るで、一部の玄人(くろうと)筋からは高い評価を得ていながら、書店の棚にその名を見ることもない作家がいる。1961年の処女作、『家族の終わりに』で光芒(こうぼう)を放ったリチャード・イエーツもそんな一人で、92年に没するまでに短編集も含めて9冊の本を出しているが、ついぞ読者大衆の迎えるところとはならなかった。ディカプリオとケイト・ウィンスレットで映画化されるのを機会に翻訳が出て、イエーツは本邦初のお目見えである。
50年代半ば、大方の日本人の目にアメリカが輝いて見えた時代のニューヨーク近郊を舞台に理想を模索する若い夫婦の日常を描いた本書は、甘美な抒情を排した冷徹な現実凝視で、断然、同世代のアメリカ作家を寄せつけないとまで言われている。
主人公のホイーラー夫婦、フランクとエイプリルは自分たちの可能性を信じて周囲に対していくらか優越感を抱いているが、実は本書で郊外族と表現されている中流の規範を一歩も踏みはずさない平均的な市民である。「特定の目標をもたなければ、それによる制限を受けることもない」というフランクの考え方が何よりもその証拠だろう。
地域の文化活動でアマチュア劇団に参加し、主役を演じて不成功に終わったエイプリルが舞台を降りてなお、理解ある妻と、優しい母親と、女傑を演じ続ける姿が主旋律だが、作品の大半を占める夫婦の対話から聞こえてくる欺瞞(ぎまん)、幻滅、齟齬(そご)、挫折の不協和音は時に滑稽(こっけい)ですらある。
原題『レヴォリューショナリー・ロード』は夫婦が住む街路の名であると同時に、独立革命にはじまったアメリカの歴史をも指している。無限の可能性を信じてアメリカン・ドリームを追い求めてきたこの国が曲がり角にさしかかったことを作者は看破していた。エイプリルの唯一演技ではない行動がその現実を手繰り寄せる。訳者が言う通り、悲しい結末にもかかわらず、読後に深い印象を残す作品である。
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Richard Yates 1926年、米国生まれ。92年没。