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【週末読む、観る(2)】渡部昇一、稲田朋美、八木秀次著『日本を弑する人々』 (1/6ページ)
■【私の本棚】国際日本文化研究センター准教授 池内恵
6月19日
本の整理をしている。活字情報ばかりに触れて生活してきたので、書棚の整理状況は頭の中身そのもの、ひいては生活全体に直結する。書棚が荒れているときはものを考えられないし、考えられていないから本が整理されない。
世代の近い研究者が本を出すと手に取る。国際政治・EU研究者の遠藤乾編『ヨーロッパ統合史』(名古屋大学出版会)が完成した。あちこちの書評でも評価を受けているのがうれしい。これと並行して出た遠藤乾(編)『グローバル・ガバナンスの最前線』(東信堂)が興味深い。国民国家が消え去るのでもなく、大国のヘゲモニーに服すのでもない、別の位相にEUの機構を既成事実として定着させていった西欧は、一見、米国中心のグローバル化の中で独自の優位な足場を築いている。
私が取り組んでいるのは、EUのように政治的合意を通してではなく、イスラーム教という人間の意思を超越した規範を共有し指針とすることによって、国民国家の統制を超えて政治的な一体性をもつ「イスラーム世界」という存在である。イスラーム世界を国際社会の法と秩序の中にどう安定的に位置づけていくか。容易な答えを与えてくれる本は見当たらない。
6月20日
米国での国際テロリズム対策をめぐる研究と議論が、9・11事件以後の長い経験を踏まえて深まってきた。米国による「対テロ戦争」が敵として想定する、「アル・カーイダを指導部として、全世界の組織に指令を与えるテロ集団」というイメージはふさわしくない。テロ集団の実態やイスラーム主義運動のメカニズムを知っていれば容易に気づくのだが、漠然とした「対テロ戦争」が米国の対外政策の最優先課題と位置づけられてきたこれまでは、そういった指摘は受け入れられにくかった。テロ集団を指揮命令系統をもった組織としてとらえないのであれば、具体的な対策を立てることが難しくなるからだ。マーク・セージマン『指導部なきジハード 21世紀のテロ・ネットワーク』(ペンシルベニア大学出版)は、テロ組織の見方に転換を促す。長く待ち望まれていた論調がやっと主流になってきた。
6月21日
政治や安全保障において宗教の影響があらわになると、世俗権力の優位と政教分離を原則としてきた近代社会の基本構成を見直さなければならなくなる。チャールズ・テイラー『世俗の時代』(ベルクナップ・ハーバード大学出版)は格好の手引きだ。世俗主義を可能にした、人間理性の神の秩序からの独立の過程を描くのが、リチャード・E・ルーベンスタイン、小沢千重子訳『中世の覚醒(かくせい)−−アリストテレス再発見から知の革命へ』(紀伊国屋書店)。世俗主義への批判的な問い直しを経て、世俗主義と政教分離を積極的に再評価し擁護しようとする思想史・政治史の本が英語圏で目立つ。マーク・リラ『潰(つい)えた神−−宗教・政治・近代西洋』(クノップ社)が洗練されている。
いけうち・さとし 昭和48年、東京都出身。著書に『現代アラブの社会思想』『アラブ政治の今を読む』など。