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【週末読む、観る(1)】『誘拐捜査 吉展ちゃん事件』の著者・中郡英男さんに聞く (1/5ページ)
■【著者に聞きたい】『誘拐捜査 吉展ちゃん事件』中郡英男さん(集英社・1785円)
久しぶりに自宅でくつろいでいると、妻が台所で天ぷらを揚げ始めた。ビールをコップへ注ごうとしたとき、電話が鳴った。警視庁記者クラブの同僚からだった。
昭和40年7月4日。「忘れもしません。2年越しで警察をはぐらかした小原が、一晩で自供に転じたのだから」
吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐殺人事件が起きたのは38年春。東京・入谷の公園から4歳の坊やが連れ去られ、身代金50万円が奪われた。著者は、発生から逮捕まで、東京新聞社会部の警視庁キャップとしてかかわった。一線刑事はその日、3度目の小原保(当時32)の取り調べ終了に意気消沈したという。それが一転、自供、遺体捜索へ。深夜の“雑談”で何があったのか。改めて当事者に取材を重ねた。
いま取り組んだのは、理由がある。自供に持ち込んだ捜査1課切っての“落とし屋”平塚八兵衛刑事らの物語を、40年末から1年間、夕刊に連載した。「平塚は凶悪犯と紙一重。立場が違えば大悪人だったとよく笑った。だからこそ犯人と心通わせたのかも」。連載を元に多くの小説が生まれた。
「ところが死刑判決で関係者が重い口を開き始めると、一刑事が信念を貫き、上司の反対を押し切って難事件を解決したという単純な構図ではない。歳月を経て見えてくることがあるのですね」
警察内部の反目と抗争。旧来の捜査手法と近代合理捜査の葛藤(かつとう)。そして偶然。“定説”作りに加担した責任を感じ「いつか正確な断片を書き残したい」と強く思ったという。同時に「大捜査は必ずどこかですべる」と実感。ふり返れば有力情報は初めから目前にあった。「1万件もの情報の裏取りは困難だったろうが、刑事の連携はいつも課題です」
村越吉信ちゃんが生きていたら今年50歳。失われた命を悼みつつ読んでほしい。
(牛田久美、写真も)
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ちゅうぐん・ひでお 昭和5年、茨城県生まれ。早稲田大卒。旧姓・小池。東京新聞社会部長などを歴任。