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【書評】『訓読みのはなし』笹原宏之著

2008.6.29 11:24
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 ■読み分けは日本語の特徴

 日本語で使う漢字には音読みと訓読みがある。そんなことは私たちにとって常識以前の知識である。

 しかし漢字の音訓についても、一般にあまり知られていないことがたくさんあって、たとえば「菊」を「キク」と読むのは音読みだし、「戸」を「と」と読むのは訓読みである。「井」の音読みを問われてたちどころに「セイ」と答えられる人は、世間にいったいどれくらいおられるのだろうか。

 そもそもいったいなぜ漢字には音と訓があるのか。実は漢字の音と訓のように、ある文字を意味に応じて読み分けることは、日本語に特に顕著な特徴なのだが、日本語を当たり前のものとして使っている私たちも、そのことを日ごろはほとんど意識しないものだ。

 本書は、現代日本で使われる漢字に関して、ユニークで鋭い論考をこれまでたくさん刊行してきた著者が、漢字の「訓読み」に焦点をあてて、たくさんの語について、文献の記述などによって由来を平易に解説した著述である。

 全体の構成は、訓読みの歴史/音読みと訓読み/多彩な訓読み/訓読みの背景/同訓異字のはなし/一字多訓のはなし/漢字政策と訓読み/東アジア世界の訓読み/という8章からなり、著者が単に訓読みを日本語の歴史のなかだけではなく、日本語以外の言語との比較をふまえて、総合的に考察していることが見てとれる。

 著者の関心と視野はまことに広く、それぞれの読みを論じる際に、『古事記』『日本書紀』はもとより、各時代の文献や辞書に周到に目を配り、森鴎外・国木田独歩・萩原朔太郎など近代文学作品にいたるのは当然として、桑田佳祐や蛯原友里など現代のアイドルにおける文字の使い方にまで筆が及ぶ。

 著者の資料分析の精密さはかねがね定評があって、その力量が本書においても遺憾なく発揮されている。ただ、新書という形態ではやむを得ないが、巻末に索引がついていないのがなんとも残念である。(光文社新書・861円)

 阿辻哲次(京都大大学院教授)

                    ◇

【プロフィル】笹原宏之

 ささはら・ひろゆき 早稲田大社会科学総合学術院教授。昭和40年生まれ。

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