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【読む、観る(4)】12編それぞれに自分を見る『ツバメ記念日』ほか (1/5ページ)
このニュースのトピックス:文学・書籍
■話題の本
『食堂かたつむり』小川糸著(ポプラ社・1365円)
無名の新人だった著者の初小説。今年1月に刊行されると、「泣ける」と口コミが広がり、約17万部のベストセラーに。ポプラ社の編集担当者は「食や家族、人生など、さまざまな要素が詰まっていて、いろいろな読み方が楽しめる」と話す。
物語は、突然の失恋から始まる。倫子が料理店の仕事から戻ると、恋人は消え、部屋はもぬけの殻に。大切な料理道具までもがない。倫子は衝撃から声まで失う。唯一残ったのは、祖母の形見のぬか床だけだった。
母親との確執から10年前に去った故郷へ戻り、懐かしい風景の中で考える。「料理なら作れる」。自宅の離れで『食堂かたつむり』を開く。メニューはなし。お客は1日1組。それぞれの人生に思いをはせ、最適な味を創作する。いつしか、この食堂で食事をすると願いがかなうという評判が広まっていく。
それにしても、料理のおいしそうなこと。甘酸っぱさが広がるザクロのカレー、野菜のうまみが詰まったジュテームスープ…。香りや皿の温もりまでもが伝わってくる。一方で、料理に変わる“いのち”に対する尊厳が満ちあふれる。
作品を織りなす文章は一貫して軽妙さを備える。“癒やし系小説”との評判は確かだが、甘いだけではないのが“味”だろう。倫子という名前や実家で時を刻む“ふくろう爺”の秘密、母親との関係、失った声は戻るのか…。終盤にはあっと驚く展開が待っている。
絡みあった糸がほどける瞬間、料理さながらに苦さや酸っぱさが入り交じった感情が込みあげる。人生は大なり小なり、絶望と再生の繰り返しだ。その中に浮かび上がる日常のいとおしさと人間のたくましさが、読み手を思わずホロリとさせる。
(舛田奈津子)