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【読む、観る(5)】「笑点」の林家木久扇師匠が「旬を読む」、ほか (1/5ページ)
■旬を読む 林家木久扇(落語家)
『月芝居』北重人著(文芸春秋・1600円)
読んだあと、上等な和菓子を佳(よ)いお茶とともに食べ終えたといった感じがした。
以前、江戸時代初期の忍者の戦いを描いた北重人の『白疾風(しろはやち)』を友人にすすめられ読んだとき、時代小説の書き手として良い人が出てきたなと期待した。
『月芝居』は私流に解釈すれば不動産時代小説とでも呼ぼうか。主人公の小日向弥十郎は交代寄合衆、左羽家の江戸留守居役。左羽家は旗本で西美濃に知行地をもち、主人は参勤交代をする。幕府から与えられた「拝領屋敷」のない旗本は、自前の「抱(かかえ)屋敷」を持たねばならない。そして弥十郎の抱屋敷さがしから物語は始まるのだが…。
私は東京・日本橋生まれ。幼少の頃はまだ水路がたくさん残っていて、おばあちゃんと浜町河岸から隅田川をさかのぼり浅草へ遊びに行った。弥十郎もよく舟に乗る。江戸川、隅田川、支流の神田川。抱屋敷探しは水路をたより、そして事件が重なってゆく。弥十郎の友人として遠山金四郎が脇役で出てくる。今は大目付だが、ともに青春を剣友としてすごした。大敵として天保の改革で悪評の老中、水野忠邦、その一味で北町奉行の鳥居耀蔵、怪人波嶋三斎。紅一点が江戸橋広小路の元締、翁稲荷の右京。この美女は弥十郎と相思相愛といったところで物語の役者がそろう。
それにしても大名旗本の拝領屋敷交換、“相対替(あいたいがえ)”と呼ばれる制度で、多額の金が動いていたという事実を小説の芯(しん)に持ってきた慧眼(けいがん)には一本取られた。天保の改革とはどのようなものだったのかが見事に浮き彫りにされている。
弥十郎はあまり強い男ではないという人物像もとても親近感を持った。庭で素振りをやれば息が上がり、腹も出てきて立ち居振る舞いも敏捷(びんしょう)ではなくなっている。そんな武士が巨悪に挑む、大丈夫なんだろうか…。