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【週末読む、観る】鴨下信一が読む五木寛之著『わが人生の歌がたり』ほか (2/3ページ)
【中書評(1)】
鳴海風著『和算小説のたのしみ』(岩波書店・1365円)
江戸時代、日本にはわが国で独自に発達した数学、和算が存在し、多くの人が楽しみながら学んでいた。そのことは、各地の神社に残る和算の問題を解いて奉納した「算額」で知ることができる。
和算の発達は幕末、日本人が西洋文明を取り入れるときに大きな役割を果たすが、そのわりにあまり知られていない和算の世界を、楽しみながら知ることができるのが「和算小説」と呼ばれる歴史小説だ。
著者は東北大学で機械工学を学び、自動車部品メーカーに勤務した異色の経歴を持つ歴史小説家。和算の歴史にふれながら、昭和32年の新田次郎『算士秘伝』から平成19年の著書『美しき魔方陣』まで29タイトルの和算小説を紹介する。数学嫌いにも興味深い和算の世界へのガイドブック。
【中書評(2)】
松本一生著『認知症を生きる』(昭和堂・1785円)
認知症は別世界のことと思っている人もいるだろう。しかし、実際にはとても身近なところに存在する。近年、社会が少しは理解を示すようになったものの、果たしてどれだけの人が本当にこの病気のことを理解しているだろうか。一般的には「何もできない人」と思われがちな認知症の人の生活に、実は鮮やかな感情と生活力が残っていることを紹介する。
その一方で、熱心に仕事に取り組んだ結果が期待されたものにならず、悩む支援職は少なくない。プロとして高度なサービスを求められる彼らは、緊張を強いられ、仕事に熱心な人ほど「燃え尽きやすくなる」危険性を併せ持っているともいう。そうした彼らに「間違いは償うことができる」と呼びかけている。8つのケースを取り上げた。
【中書評(3)】
前田正治、加藤寛編著『生き残るということ』(星和書店・2625円)
平成13年2月、ハワイ沖で、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」と米国の原子力潜水艦が衝突、「えひめ丸」の乗員9人が死亡した。本書は事件から生還した生徒たちのトラウマや苦悩に寄り添い、ケアに努めてきた担当医師が、7年間の軌跡を詳細につづった記録である。
生き残った生徒たちは喜びとは無縁の、仲間を助けられなかった罪悪感に悩まされる。たびたび事故当時を思いだし、ストレス障害を起こす者も多発した。
診療にあたった医師やボランティアらは、はじめは彼らに拒絶されながらも、ねばり強く向き合い、徐々に心を開いていく。事故の裏で起きていたトラウマとの闘い、生徒たちの成長の過程はほかの被災者、遺族のケアにも多くの示唆を与えてくれるだろう。
【中書評(4)】得津美惠子著『春のうねり』(アットワークス・1050円)
日本航空国際線の元客室乗務員で、きものコンサルタントの著者が挑んだ恋愛小説。第103回コスモス文学新人賞の長編小説部門奨励賞を受賞した。
和歌山の紀北筋にある粉河寺周辺を舞台に、有力な歯科医に嫁いだものの、夫からの愛情に恵まれず子供もないまま孤立無援の生活を余儀なくされている32歳の綾野と、厳しい祖父の技を受け継ごうと努力するひたむきな28歳の表具師、剛がひそかにひかれ合っていく様子を丹念に描く。
名家の夫人と職人という、まったく住む世界が違う2人の禁断の恋は、帯に「愛は人の想像をはるかに超える」とあるように、周囲の静謐(せいひつ)な日常に大きな波紋を広げていく。綾野はやがて剛の子供を身ごもることになるが…。