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【週末読む、観る】94歳の音楽評論家・吉田秀和さんに聞く (2/4ページ)
【大書評(1)】
『「在支二十五年」米国人記者が見た戦前のシナと日本』上・下 ジョン・B・パウエル著、中山理訳、渡部昇一監修(祥伝社・各1995円)
東京裁判において、検察側は「日本を有罪とするため」、本書の著者ジョン・B・パウエルを証人として召喚した。日本の対中国侵略行動についての証言を求めたのである。パウエルは1917年から25年にわたり、「チャイナ・ウィークリー・レヴュー」の編集長などをつとめたジャーナリストである。1941年の日米開戦とともに、上海の捕虜収容所に入れられ、凍傷で踵(かかと)に重傷を負って、相当に日本を憎んでいた。翌年の捕虜交換船で帰国後、本書を書き上げている。
ところが、このパウエルの書は、東京裁判においてその何カ所かが弁護団側証拠として提出されている(もっとも、裁判所はそれを、一新聞記者の意見にすぎず「証明力は有さない」などの理由で、却下している)。
検察側がパウエルに期待したのは、満州事変(1931年)に関連する証言であったろう。パウエルは満州事変について書いている。「日本所有の南満州鉄道地区内と朝鮮にあらかじめ駐留していた日本軍が、満州の首都を占拠したのだ。…その占拠は、1931年9月18日の夜10時頃、計画通りに実行された。この日は覚えておいたほうがよいだろう。第二次世界大戦のほんとうの開始日だったのである」と。
この、満州事変を第二次世界大戦の「ほんとうの開始日」とするパウエルの記述は、1936年に刊行されたアメリカ国務卿スチムソンの『極東の危機』の歴史認識とまったく符合するものであった。
一方、弁護団側がパウエル書に期待したのは、ジャーナリストのパウエルが上海などで目にした「排日運動」の実態や、その背後で策動したコミンテルンとその指示を受けた中国共産党軍の暗躍についての記述などであった。
このように敵対する立場からの証拠資料とされた本書が、刊行後63年をへて、全訳されたのである。監修者まえがきがいうように、「過去の大戦の問題は、あれから七〇年経っても時事問題である」。
(麗澤大大学院教授 松本健一)
John B・Powell 1886〜1947。