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【週末読む、観る】94歳の音楽評論家・吉田秀和さんに聞く (1/4ページ)
【著者に聞きたい】
音楽評論家・吉田秀和『永遠の故郷 夜』(集英社・1680円)
文芸誌「すばる」(集英社)に2年前から連載してきた話題のエッセーが一冊にまとまった。現在94歳。戦後から日本の音楽評論をリードし、著作は膨大な数に上るが、意外にも歌曲に絞った単行本は初めてなのだという。
「歌曲は言葉と密接に結びついているため、人はその詩のイメージを持ってしまう。音に意味を見いだすことを仕事にしてきたので、歌曲を論じるのは好きじゃなかった」。しかし、齢を重ねて気持ちに変化が生じた。「詩という、非常に人間くさいものを取り上げたくなったんです」
ヨーロッパの夕暮れ、街角でかいだ花の香り…。リヒァルト・シュトラウス、フォーレら巨匠たちの名歌曲の魅力が、自身の追想とともに、情感あふれる筆致でつづられている。曲がつけられた詩は大家の作品ばかり。シュトラウスの《四つの最後の歌》は3つがドイツの文豪ヘルマン・ヘッセ。フォーレの《月の光》は、フランス象徴派の大詩人、ヴェルレーヌ。詩に向き合った上で、曲への論考が重ねられていく。文章の合間には、味わい深い手書きの楽譜が挟み込まれた。行間には亡き妻への思いもにじむ。「歌曲は詩と音楽との結婚」。自身の言葉通り、新境地となる本書も、音楽と文学が恋をするように結びついた幸福な評論集ともいえるだろう。
「中原中也にフランス語の手ほどきを」との一文で始まる件が興味深い。この天才詩人との交流は有名だが、「詩を語るという宣言の意味で書きました」。つまり、偉大な詩への思いが、連載の原動力となっているのだろう。
連載は続いており、全4巻にまとめたい考え。「題名に『夜』とつけたのは、聖書を読むと世界は闇から始まったから。だから『薄明』『昼』『黄昏』と続く予定です」。音楽への愛情とともに、その執筆意欲は今も衰えることがない。
(堀晃和)
よしだ・ひでかず 大正2年、東京生まれ。東大仏文科卒。集大成の『吉田秀和全集』は全24巻。平成18年に文化勲章受章。