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【週末読む、観る】話題の本『B型自分の説明書』、やなせたかしの恋愛小説評ほか (4/4ページ)
【大書評(2)】
『走ル』羽田圭介著(河出書房新社・1260円)
高校生が周囲になにも告げず旅に出るからには理由があるだろうと思う。リュックに必要なものをつめ込み、帰るべき場所である家に背を向け、たった一人で旅立つ。まだ経済的に親の庇護(ひご)が必要な少年が家を出るのだから、人はそこに物語を期待するだろう。
一体彼になにがあったのか。それほどまでに彼を駆り立てたものはなんなのか。そこにあるのは、あと一歩成熟しきれない精神が生み出す怒りや苛立(いらだ)ち、そしてもしかしたら、ほんの少しの希望と傍観。想像しやすいのは、そんな感情の類。
だけど、本書の主人公である本田少年には理由がない。少なくとも、家を出たそのときは。たまたま物置で見つけたレース用自転車に乗って、最初は自宅のある八王子から学校のある四ツ谷まで走ってみるつもりだった。しかしそれをきっかけにして、実にあっさりと、彼は友人や家族の前から姿を消してしまう。埼玉、栃木、福島、山形…走って、走って、ただひたすらに走り続けて、北を目指す。
野宿をし、股(また)ずれをおこしながら、どしゃぶりの雨の中を突き進む本田少年は、ほとんど修行僧のような雰囲気なのだが、彼が風邪で寝込んでいると思っている友人や彼女から携帯に届くメールは非常に俗っぽくて、その対比がなんともおかしい。壮大な冒険をしているのに、携帯があるかぎり、彼は平べったい日常から逃れられないのだ。そして彼自身も逃れようとしていない。俗っぽいしがらみを背負ったまま、自転車は北へと疾走する。
読んでいて不安になったのは、たくましくペダルをこぎ続ける本田少年が、本当にどこまでも行ってしまうような気がしたからだ。彼はもう二度と東京には戻らないのではないか。そんな思いを一瞬抱くほど、自転車で走る描写には力がある。
生命力に満ち溢(あふ)れた少年の矜持(きようじ)。彼を突き動かしていたのは、もしかしたら、そんなものだったのかもしれないと思う。
(作家 生田紗代)
はだ・けいすけ 昭和60年生まれ。高校在学中に『黒冷水』で文芸賞を受賞してデビュー。著書に『不思議の国のベニス』がある。