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【週末読む、観る】話題の本『B型自分の説明書』、やなせたかしの恋愛小説評ほか (2/4ページ)
【この本と出会った】
『瓶詰地獄』夢野久作著(角川文庫など)
高校時代の終わりの、大学受験準備をしていた時期に、私は地元の図書館に入り浸っていた。勉強をする、という名目である。机の上に一応、参考書とノートを広げた。ただ、あまり勉強が好きではない私は、すぐにふらふらと本棚の間をさまよって、目についた面白そうな本を引っ張り出してしまう。席へ戻り参考書の上に広げて読む。
そんな中で、夢野久作「瓶詰地獄」という1篇と出会った。7ページほどしかない短い小説だ。地の文がない。浜辺に3つの瓶が打ち上げられていた、という役場の報告書に続き、その瓶の内容物であるところの手紙が3つ、ぽん、ぽん、ぽん、と提示されるだけで、あっさりと終わる。
ただ、この「ぽん、ぽん、ぽん」の配列が見事なのだ。大事なシーンのない、途切れ途切れの手紙。それを、書かれた順番とは逆の流れで構成してある。幼い兄妹が無人島に流れ着き、成長過程で、外部に向けて瓶の中へ手紙を入れた、という設定。ひとつ目の手紙はすらすらと流れるような大人の文面、2つ目は懊悩(おうのう)する若者の手紙、3つ目はたどたどしいカタカナだらけの文面である。2人だけで成長した結果、近親相姦をしてしまい海に身を投げる、というゾッとするストーリーなのだが、ラストに純真無垢(むく)な文章がつづられるため、読後に異様な切なさが残る。
同じストーリーを描くのにも、さまざまな方法がある。たとえば「こういうことがあって、こうなりました」と説明するのは簡単だ。しかし夢野は簡潔に、手紙を羅列するだけ。私が感嘆したのは「あ、これだけで小説になるんだ」ということだ。3つの手紙の順番を揺らすだけで、小説が立ち上がる。私は図書館の中で夢想に耽(ふけ)り、参考書には目を戻さず、将来作家になって、すばらしい構造の小説を書く自分の未来に、思いをはせた。その後、志望大学には落ちた。
(小説家 山崎ナオコーラ)
〈メモ〉 やまざき・なおこーら 昭和53年、福岡県生まれ。国学院大文学部卒。『人のセックスを笑うな』で第41回文芸賞を受賞。同作や『カツラ美容室別室』が芥川賞候補に。近書は『論理と感性は相反しない』。
夢野久作は明治22年、福岡県生まれ。SF作品や幻想文学などを手がけ、『ドグラ・マグラ』など怪奇味と幻想性のある作品が多い。『瓶詰地獄(瓶詰の地獄)』(昭和3年)は、3部の手紙から成り立つ短い作品だが、“夢久”作品の名作との評価が高い。